ネイルの仕上げが間に合わず、「もう出て!」と言われて…
小湊 それが待っている時間さえなかったんですよ! メイク、ヘアセット、衣装、リハーサルとやっていたら、ネイルの仕上げが間に合わず、「もう出て!」と言われて。カーテンが開き、突然始まりました。私は緊張しやすいので、それくらいがちょうどいいのかもしれません(笑)。会場に人がたくさんいるのが見えて、一瞬腰が引けましたが、踏み出すと深い集中に入っていきました。あのときは、自分じゃない何かになっていましたね。
──部屋をイメージした空間で、一人で演じ続けるパフォーマンスでした。どんなことを思い浮かべていたのでしょうか?
小湊 私のショーは、セリフなしで一人で2時間をもたせなくてはなりませんでした。現場に行ってから口頭で、「今回のテーマは部屋で人魚がくつろいでいるような感じです」と言われたんです。「なんじゃそりゃ?」って思ったんですけど、不思議と冷静に世界に入っていけました。
始まると、いろんなものがフラッシュバックしてきました。
今までやってきたものが一気に込み上げてきて、表に出す機会などないと思っていたレッスンの光景が蘇ってきたんです。ああ、あのときにこんなことをやったなとか。そんな日が来るなんて、想像もしていなかった。
集まったファッション関係の人たち、海外の人たちの目にはどう映るのだろうかと考えていました。途中で見えたフォトグラファーのテオさんの表情と、終えた後にマネージャーからかけてもらった言葉で、達成感を持っていいんだと思えました。
──壁に貼られた紙に絵とメッセージを描かれていました。
小湊 心に浮かんでくる何かを残したくて、ペンを手にしました。そのときに、どんな感情が込み上げてきたのか、上手く言えないのですが、大きく手を広げた姿を描いていました。その絵が愛おしくて、そっと手で撫でていると、涙が自然と溢れてきました。それがどんな感情からだったのかは、わかりません。最後に、見にきてくれた人たちへ私の素直な気持ちを伝えたかった。
「私は日本のAV女優です。人生で初めてパリに来ました。今までにない初めての感覚を、ありがとう」

