外交問題にエスカレートさせる

 孫麗たちによれば、艶金は盗撮事件が警察沙汰になってから「外部の人間の立ち入り」を見張るという理由で寮の入り口に監視カメラを設置し、建物入り口のドアに鍵を取り付ける「対策」をとったという。

「内部犯行の可能性が高いのに、そんなことをしても意味ないんじゃないですか?」

「意味ないよ。例の3人の日本人も、そのまま同じ部屋に住んでる」

ADVERTISEMENT

 孫麗は言う。なんと会社側は、性犯罪の被害者である技能実習生の若い中国人女性たちと、加害者が含まれている可能性が高い自社従業員の日本人男性たちを、事件発覚後も同じ寮に住まわせ、トイレや浴室を共用させ続けていたのだ。

「事件はずいぶん前のことですよ。状況はすでに落ち着いており、話すことはありません」

 大垣から帰京後の2018年4月上旬、私が『Newsweek日本版』の記者の立場で艶金に電話取材をおこなったところ、そんな返事がきた。話をしたのは、事件の翌日に「仕事と生活を分けろ」と主張したとされる日本人男性社員だ。

「『ずいぶん前』と言っても、たった2ヶ月前に起きた話で、盗撮犯も捕まっていないですよ?」

「犯人は外部の人間かもしれないでしょう。警察の捜査に任せています。実習生たちは事情を納得して、仕事を続けています。もういいんじゃないですか」

 男性社員は苛立った口調で会話を打ち切った。もちろん、被害者の孫麗たちがまったく「事情を納得」していないことは言うまでもない。

 いっぽう、技能実習生を監理するGネット協同組合の担当者も、電話取材に対して「(同じ寮の日本人男性が盗撮犯であることは)可能性としては高い」と認めたにもかかわらず、「艶金さんはしっかり対策している」と、特に根拠は示さず言い切った。

「問題の解決は警察と艶金さんがおこなうことですよ」

 あくまでも監理団体とは無関係という姿勢だ。

 対策を取らない受け入れ先企業と、事なかれ主義の監理団体、おざなりの捜査しかおこなわない警察──。立場が弱く日本語もできない技能実習生は、犯罪に巻き込まれたときは無力なのだ。ゆえに被害者からはこんな意見まで飛び出す。

「日本は治安がいいって聞いたけれど、信じられない。中国なら、こういう犯罪は公安が監視カメラの映像をチェックして、犯人をすぐ捕まえるのに。日本は中国よりも法律を守る意識が薄いと思う」