行き着いた先は「脳」だった

 さて、その多くの学びの中で皆さんにも知ってほしいのは、筋肉は二頭筋や三頭筋のような、わかりやすい形状のものばかりではないということだ。板状筋、方形筋、羽状筋、半羽状筋といった変わった形状の、細かな動きに必要な筋肉が多数存在する。

 また、筋肉を正しく動かすには、骨の動きも重要で、骨が正しい位置になければならない。トレーニングは力をつけるだけでなく、姿勢やフォームが大きく影響する。

 そして、この先は私のオリジナルの見解だが、筋肉や骨格の勉強の行きつく先は「脳」だと感じている。

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「投げることとは?」の私なりの結論は、幼い頃の運動脳刺激に始まり、運動神経脳シナプスの融合で終わるというものだ。

 

 私の経験と感覚から、中学生くらいまでの間にいろいろなスポーツや運動をすればするほど、短いエノキタケのように、ニョキニョキと運動神経回路の芽が伸びると考えている。その神経回路は使われずに休んでいるが、ある時期に野球だけに集中し始めると、野球に必要な運動神経回路が新しい運動神経回路を探すように伸びながら、休んでいたエノキタケとつながる時があるのではないか。そして、それがプレーに反映され、監督やコーチなどの目には上達、覚醒したように見えるのだと考える。そのプロセスとして、トレーニングがあるのではないだろうか。

コーチ時代にも大いに役立った筋肉の科学

 私の場合、トレーニングは、最速投手を目指したものではなく、怪我のないタフな身体を目指したものだった。筋力アップより、左右、上下、前後の筋バランスを整えるトレーニングだったように思う。

 肩のクリーニング手術後のリハビリは、肩の機能改善や、肩を正しく動かすために、強さだけではない柔軟性を含む筋バランスの獲得がカギだった。それらは正しい姿勢で正しい筋動作を行うための、運動神経脳へのアプローチだったのだろう。

 そのトレーニングの成果と学びは、現役時代のみならず、コーチ時代にも大いに役立った。

 コーチ時代、選手の投球フォームを見る時は、様々な角度から、全身レントゲン写真のように、フォーム分析と各部位の筋肉がどう動いているかの筋動作解析が、自分なりにできたように思う。

 繰り返しになるが、そのベースとして『石井直方の筋肉の科学』がとても役に立っている。

 そこに自分の経験値などを加味して、フィジカル面で選手と向き合ってきたのだ。

次の記事に続く 「危険を伴うので絶対に推奨しない」筋肉量を増やして球速を上げた齋藤隆が野球少年のウエイトトレーニングに警鐘を鳴らす“納得の理由”

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