5万円近くの中古価値を失うリスクも伴う

 また、スマホのロックが開けないと、中古ショップに売却するといった手段が使えなくなる可能性が高い。

 中古として売るには、当然ながら新たな利用者が使える状態にできなければならない。ロック中でも初期化できる場合もあるが、それは通常のストレージ領域に限った話だ。おさいふケータイ機能などが使えるFelicaポート搭載の端末は、本体のストレージとは別にFelica専用のメモリチップを実装している。このチップを初期化するにはスマホにインストールしたFelica専用アプリを起動する必要があり、ロックがかかった状態ではその処理を行えない。つまり、買い取り不可の状態から抜け出せないのだ。

 今春から今夏にかけて、iPhoneにマイナンバーカードの全機能が実装できるようになるが、この機能もFelicaチップに個人情報が保存される。その後に対応が予定されるAndroid端末も同様だ。すると今後は、正規の方法で初期化できなかったスマホが中古市場で価値を失う可能性は益々高まるとみていいだろう。

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 この損失額は、しばらく経った主力端末の中古買取額の目安から算出したい。内閣府の消費動向調査(令和6年3月)によると、二人以上の世帯ではスマホ(携帯電話)の平均使用年数は4.5年となる。死亡時にある程度使いこまれていると想定し、使用年数は2~3年程度とみなしてみる。

 3年前の2022年によく売れたスマホとしてはiPhone 13が挙げられる。スマホ買取大手であるイオシスのサイトで国内版iPhone 13の中古買取価格の目安をみると3万8000円~6万1000円となっている。中央値で4万9500円。この額が得られなくなる可能性が高いわけだ。

書いたパスワードを修正テープで隠せばいい

 以上から、ロックがかかったままの故人のスマホによって生じそうな損失や経費をまとめてみる。

・スマホ決済サービスの残高目安    約1万2000円

・サブ以降の預金残高塩漬け目安    約4万4000円

・株や生命保険の確認作業    約9000円

・サブスク契約の解除遅延目安    約2000円/月額

・通信通話契約の解除遅延目安    約4000円/月額

・中古売却できない損失目安    約5万円

・ロック解除の外注目安    約30万円

 個々人でスマホの使い方は異なるので上記はあくまで目安でしかないが、ロック解除を外注しなかったとしても、10万円を超えるマイナスが容易に発生することは分かった。それに加えて、SNSやLINEなどを通した交友関係の確認ができなかったり、思い出の写真が見られなくなるといったお金に換算できない損失も生じる可能性がある。そして、遺族に強いる手間も確実に増える。

 Bluetoothを使った紛失防止タグを開発しているMAMORIOが2022年7月に実施した「財布の紛失・置き忘れに関する実態調査」によると、財布をなくしたときの金銭的、精神的、時間的損害の合計を金額換算すると「10~20万円」という回答が最多だったという。スマホの役割が財布に近づいている昨今の事情を考えると、この調査結果とロックされた故人のスマホには通ずるものがあるように思える。

MAMORIO「財布の紛失・置き忘れに関する実態調査」より

 さて、スマホにまつわるこれらのリスクを1分足らずの手間でゼロにできる対策がある。国民生活センターのトラブル防止策でも取り上げられていたが、「スマホのスペアキー」を作ればいいのだ。2019年春に筆者が考案したが、これ以上に簡単で安全な方法はいまだ思いつかない。

 名刺大の厚紙に自分のスマホの特徴とパスワードを記載し、パスワード部分にだけ修正テープを2~3回かければ完成する。これを預金通帳や実印などの貴重品と一緒に保管するだけだ。平時に見られても安心できるし、万が一の際はコイン等で修正テープを削ってもらえばパスワードが伝わる。

パスワードにだけ修正テープをかける。光沢のある厚紙を使うのが理想だ 筆者提供
コインで削ればパスワードが露出する 筆者提供

 台紙は余っている自分の名刺を使えばいいが、テンプレートは筆者のホームページでも公開しているので、興味があればダウンロードして活用してほしい。

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