「酒は飲んでも飲まれるな」。ビジネスの場では、一度の失敗で全ての信頼を失いかねない。実際にあった悲しい事例を『まさか私がクビですか? ── なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』(日本経済新聞「揺れた天秤」取材班著、日経BP)から一部抜粋し、お届けする(全3回の1回目/2回目を読む3回目を読む)。

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商社マンの悲しすぎる「酒癖」(画像はイメージです) ©Trickster/イメージマート

 宴席における酒の失敗は、ときに人生をも狂わせる。

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 商社への転職が決まっていた30代の男性は、入社直前の歓迎会で酔っ払った際の言動を理由に内定を取り消された。「泥酔状態での発言は理由にならない」と処分の無効を訴えた裁判。垣間見えたのは取り返せないミスの重さであり、人を見極める採用の難しさだった。

記憶を失い、3次会で我に返ると……

 男性が我に返ったのは、3軒目の焼肉店だった。2018年9月の金曜日。営業職の即戦力として専門商社から中途採用の内定を得ていた男性はその夜、10月の勤務開始に先立って支店長や同僚らが開いてくれた歓迎会で、不覚にも酔っ払ってしまった。

 陳述書などによれば、1次会でビールやハイボールを7、8杯飲んだ。スナックでの2次会の途中から3次会の途中までの記憶がぽっかり抜けていた。覚えているのは、自分に向けられた「おまえ、ふざけんなよ」という同席者の憤りの言葉。何か粗相をしてしまったのではないか。周りに促されるままに「すみませんでした」と頭を下げた。