リモートワークで一気に普及した「ビジネスチャット」。そこでの愚痴が、思わぬ事態に発展することもあるため、使い方に注意が必要だ。実際にあった悲しい事例を『まさか私がクビですか? ── なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』(日本経済新聞「揺れた天秤」取材班著、日経BP)から一部抜粋し、お届けする(全3回の2回目/前回を読む/続きを読む)。
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在宅勤務という新たな働き方は、互いの姿が見えない故にトラブルの火種もはらむ。社用チャットに職場の愚痴を書き込んでいたことを会社に知られた女性。テレワークの禁止とオフィス勤務を命じられ、応じられないとして退職した。出社命令は無効だと提訴した女性に対し、会社側は在宅での勤務報告に虚偽があったと訴え返し、双方の主張は真っ向から対立した。
社長にバレた「愚痴の内容」とは
会社を辞めたほうがよいかと思います─。2021年3月。午後3時半ごろ、いつものように自宅で仕事をしていた女性のもとに勤め先のIT(情報技術)会社の社長から1通のメールが届いた。添付されていた1枚の画像。開いてみると、自身と同僚がチャットツール「スラック」で交わしたメッセージの画面だった。
周囲の目の届かない環境が不満をエスカレートさせたのだろうか。「有休消化という概念はこの会社にはないんですかね」「育て方、下手ですよね」「馬鹿なの」。従業員規模300人ほどの社内で当時、女性の周りだけでも5人以上の社員が相次いで離職していた。高まっていた職場や社長への愚痴が当事者しか見られないダイレクトメッセージで飛び交った。
