裁判所が下した判断は?
転職相談サービスのライボ(東京・渋谷)が運営する「Job総研」が23年1月、テレワークでマネジメントを経験した約300人に難点を尋ねたところ、37.6%が「コミュニケーション」、20.1%が「業務進捗の管理」と答えた。一方で、従業員は874人のうち65%が「テレワーク中にサボったことがある」と回答している。
訴訟で会社側はパソコンの操作記録などをもとに約103万円分の給料が払いすぎだったと主張した。女性は「操作記録がないのはデザイン業務の仕方からすれば当たり前だ」と反論した。アイデアを考える際にパソコンを使わずラフスケッチを描くケースも多かったという。ただ、具体的な成果が上がるまでのプロセスが見えにくい中で、会社側が女性の働きぶりに疑念を持ったのも無理からぬことかもしれない。
東京地裁は22年11月、女性側の訴えを支持する結論を導く。会社側がそれまで女性の勤務形態に異論を述べなかったことなどを踏まえ「出社命令は業務上の必要性はなかった」と判断。会社側に約45万円の支払いを命じた。虚偽報告という主張は「デザイナーはパソコン作業をしないこともある」と退けた。
敗訴した会社側と、訴えの全額は認められなかった女性側の双方が控訴した。約4カ月後、会社側が女性に解決金を支払い、互いに誹謗中傷しないことなどを条件とする和解が東京高裁で成立。裁判は終結した。
訴訟はリモートでの業務管理の難しさとともに、社用チャットへの安易な書き込みの危うさも映し出す。いさかいの発端となったやり取りについて、女性は「地位や責任からすれば、社会生活上、甘受すべき範囲内」と述べたが、地裁判決は「(社長を)やゆする内容が含まれ、不快に感じた点は理解できる」と言及した。
仕事の仕方が変わっても、画面の向こうにいるのが生身の人間であることに変わりはない。 在宅勤務で顔を合わせなくなった相手と、久々に対面した場が法廷という事態を避けるためにも、改めて肝に銘じておきたいものだ。
