なぜ愚痴がバレてしまったのか

 だが、やりとりをしていた同僚も退職することになり、会社にパソコンを返却。社長が中身を確認し、予期せぬ形で本人の目に触れた。「辞めるつもりはない」という女性に、社長は「これでどうやって信頼関係を築けばいいのか」とにべもない。その日の夜、「管理監督」を理由にテレワークを禁じ、オフィスでの勤務を命じる通知文が届いた。

 女性はデザイナーとして営業資料などの作成を担っていた。フルリモート勤務で、20年5月に転職してからオフィスに出向いたのはわずか2回。夫婦共働きで子どもを保育園に送迎していた上、当時は妊娠中だった。埼玉県の自宅から東京都内の職場まで電車で片道1時間半かかる。女性は命令を拒んだ。

 2週間後、会社側は無断欠勤が続いたとして女性を退職扱いとした。その後、自ら退職を申し出た女性は、出社命令は無効だったとして退職までの賃金支払いなどを求めて提訴。会社側は逆にこれまでの在宅期間を遡り、勤務時間の報告に虚偽があったとして給料の一部返還を求める反訴を起こした。

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愚痴がバレたことから裁判沙汰に(書籍から転載、以下同)

 コロナ禍を受けて一気に広がったテレワーク。女性のように通勤が困難な事情を抱える人でも働くことができ、通勤のストレスがないなどの恩恵が大きい一方で、課題も浮かび上がる。