銀行など金融機関の不正融資といっても、ほとんどの国民に直接関係はないが、往々にして「疑獄」(高官が関係する大掛かりな汚職事件)につながることがある。
今回取り上げるのは、地方銀行の頭取が女性実業家に、見合わない担保で12億円も融資し、うち4億円あまりを焦げ付かせたとされる事件。1958(昭和33)年、「戦後」から高度成長への転換期、数多くの著名人が登場するこの事件にはどんな時代的意味があったのか。
当時の新聞記事は見出しはそのまま、本文は適宜書き換え、要約する(当時は「容疑者」呼称はなく、呼び捨てだった)。文中いまは使われない差別語、不快語が登場するほか、敬称は省略する。(全3回の1回目/つづきを読む)
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「疑惑の融資12億」
「レインボー」とは、事件の主人公の1人である女性実業家が東京・銀座で経営していたレストランと会社の名前。その「レインボー事件」の摘発は1958(昭和33)年3月24日。在京紙の同日付夕刊は一斉に社会面トップで報じた。経緯が詳しい読売新聞(以下、読売)を見よう。
銀座レインボー手入れ 女社長姿くらます 千葉銀行にも波及か
東京地検特捜部は24日午前9時、東京都中央区銀座西6ノ3,株式会社「レインボー」社長、坂内ミノブ*(48)=東京都港区芝伊皿子町24=と、同社常務取締役、宗田謙三(47)の2人に詐欺容疑で出頭を求めた。坂内は所在不明のため、行方を追及するとともに、同社事務所と世田谷区深沢の坂内別宅など4カ所を同容疑で家宅捜索。証拠書類を多数押収した。
宗田は夕方までには逮捕状が執行される予定。事件の容疑は、「レインボー」が千葉銀行(古荘四郎彦・頭取)や金融会社をだまして抵当権を抹消、削除したものだが、当局は一昨年秋以降、千葉銀行の不正融資事件を内偵していたことでもあり、同行への捜査の発展が注目される。
*「坂内」は「婦人公論」の手記に「さかうち」と振り仮名があるので、それが正しいようだ
記事は千葉銀行の不正融資に言及していて、当局の狙いがどこにあるかが透けてみえる。「疑惑の融資12億」の中見出しを挟んでその点に触れる。