上司が部下に伝えた「不正の手口」

 2022年の春から夏にかけて、同部の次長が「Sansan取れないかな」と部下たちに漏らした。Sansanはクラウド型の名刺管理サービス大手で、様々な企業が膨大な取引先の名刺データを登録している。「関係者を名乗ってIDを取る方法もあると思うんだよね」。におわせたのは利用企業からアカウントIDやパスワードといったログイン情報を窃取し、不正にアクセスする手口だった。

上司が示唆した「不正の手口」(書籍より転載、以下同)

 捜査関係者によると、同部に所属する20代の男性社員は売り上げが伸びないと上司にあたる次長から非難され、休日返上で働くこともあった。結果を出さなければクビにされるかもしれないと危機感を抱くほど追い詰められ、次長の発言を業務命令として受け止めた。

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 そして一線を越える。男性社員は同年11月、設備工事会社の従業員に対してSansanの担当者をかたったメールを送った。設定の変更に必要な手続きだと説明し、ログイン情報をだまし取る。同様に次長の発言を聞いていた別の営業部社員2人も同じ手口でIDなどを窃取。一連の事件で不正に閲覧された恐れのあるSansanの名刺データは計約400万件に上ったという。