上司は「強制したつもりはなかった」と関与を否定

 顧客データなどの情報資産が流出するリスクは近年、拡大している。東京商工リサーチによると、23年に上場企業やその子会社が公表した個人情報の漏洩・紛失事案は175件。統計を開始した12年以降で最多となった。人間心理の隙を突いて言葉巧みに漏洩を促す攻撃だけでなく、情報窃取の機能を持つマルウエア(悪意のあるソフトウエア)も拡散され猛威を振るう。

情報漏洩事件は他人事ではない

 警視庁は23年3月、Sansanや被害企業からの相談を端緒として捜査を始めた。不正アクセスを実行した20代の社員ら5人を24年2~4月に相次いで不正アクセス禁止法違反容疑で摘発。1人は不起訴となったが、残る4人は罰金刑を受けた。

 警察官が事情聴取のために訪ねた際、5人のうち数人は既に退職していたという。辞めた1人は取り調べで、退職理由について「ブラックだったから」と社内の勤務環境を挙げた。

ADVERTISEMENT

 次長も事件に共謀したとして同法違反容疑で逮捕・起訴された。自身の公判の被告人質問で、次長は社員らに対する指示を明確に否定。

 当時の発言をアドバイスと説明し「強制したつもりはなかった」と釈明した。弁護側は「(次長が)犯行を主導したわけではない」と主張した。