対価を払う「グレーな手口」も横行
だが、24年6月の東京地裁判決は次長が繰り返し犯行の指示や示唆をしていたと認定した。反省の態度を示していることなどから執行猶予付きの有罪判決としたが、判決文は「(実行役の)共犯者よりも明らかに責任は重い」と厳しく指弾した。
警視庁は当初、会社が組織的に関与していた可能性を視野に入れて捜査していた。適用された不正アクセス禁止法は、従業員が業務に関連して違法行為を行った際に法人も罰する「両罰規定」が存在しない。会社が摘発されることはなかったが、企業としての対応や社内のコンプライアンス(法令順守)意識は裁判でも焦点となった。
次長の法廷供述によると、Sansanから不正なログインについて警告を受けた社内では、取得した情報をPDFファイルとして保存した上、社外からログインするよう従業員に指示があったという。
身分を偽って情報を引き出す手法は社内で「偽電」と呼ばれ、次長が入社した10年ごろは既に横行していた。Sansanを利用する企業の従業員に金銭を支払い、対価として名刺データを入手するグレーな手口も存在した。次長は公判で、こうした環境に長年身を置いていたことから「法に触れるという認識が不足していた」と悔やんだ。
判決は「会社ぐるみの組織的犯行」と明確に述べた。企業犯罪の初期の研究者で知られる米犯罪学者は20世紀前半、従業員があしき組織風土を学んでいくうちに犯罪に手を染めるようになると論じている。次長は逮捕後に退社し、別の会社で電話番や掃除係をしながら再スタートを切った。