この夫婦は10年ほど前に管理人を辞している。その後、同じく住み込みの管理人が駐在することになった。この管理人の大山透氏(仮名)は、後に住民や出入り業者と何度も警察沙汰のトラブルを起こすことになる……。
「副理事長が近くでは有名な病院の小児科医」多くの住民が理事会の矛盾を理解しないワケ
理事会は2017年からは、一時的な自主管理へ移行している。多くのマンションは、 管理全般をマンション管理を専門とする会社に委託するのが一般的だ。秀和幡ヶ谷レジデンスでも、形式上は管理会社は置いていたが、主に管理組合の自主管理が行われるようになっていた。このことも、理事たちの“独裁”に拍車をかける要因となっていた。
この頃になると、吉野理事長は住民の声に耳を傾ける素振りすら見せなくなっていた。
だからこそ、今井は理事会の矛盾を必死に訴え続けてきた面もある。ところが、大多数の住民は今井の意見を聞き入れない。その背景については複雑な表情を滲ませながら、こう説明した。
「副理事長が近くでは有名な病院の小児科医でした。彼が理事長の行動をある程度制限していた面もあり、それが住民の信頼にも繋がっていた。『偉い先生がそんなめちゃくちゃを許すわけないじゃない』というふうに、私が何を言っても届かないわけです。事情を知らない多くの住民からすれば、社会的な地位があるお医者さんと、高齢女性が言うことの信頼性に違いがありました」
住民からの理解も得られず、むしろ自分が悪者のように扱われる――。桜井も今井も、理事会に対して立ち向かう気力が次第に削がれていった。その一方で、ほんのわずかではあったが、こんな祈りにも似た希望も失ってはいなかった。
「今は無駄でも、活動を続けることで強力な味方がいつか現れるのではないか」
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