救急隊がマンションに入れず…強まる管理組合の独裁

 秀和幡ヶ谷の管理組合は、「友の会」なきあと、一層独裁化の傾向が強まっていた。今井は、その被害を直接的に受けていた。

 夜中に突然心臓に強い痛みを感じ、動悸が激しくなり、救急車を呼んだことがある。だが、いつまで経っても救急隊はやって来ない。不審に思ったが、その場を動くことができなかった。

 ずいぶん経ってから、ようやく救急隊が今井の部屋に到着した。そこで、管理室への連絡手段がなく、救急隊がマンション内に入れなかったことを知った。偶然帰宅した住民のタッチキーで救急隊は入館できたが、もし帰宅のタイミングが合わなければ、命に関わる事態になっていたかもしれない。

ADVERTISEMENT

 後日、今井は再発防止のために管理室に繋がるインターホンの設置を提案した。だが、管理組合からは「ピーピー鳴らすいたずらが増えるだけ。不要」と一蹴された。

秀和幡ヶ谷レジデンスの入り口(写真提供=毎日新聞出版)

土日祝日は介護ヘルパーの入館禁止

 こんな話もある。今井は、足腰の問題から介護ヘルパーを頼んでいたが、17年頃を境に急に訪問者などの立ち入りが厳しくなっていったという。

 “後付け”のルールは、ヘルパーや宅配業者にも適用された。ヘルパーは平日17時以降と、土日祝日は入館禁止だと宣言された。当時の今井は、ヘルパーがいないと買い物もできないため、必死に交渉した。それでも、組合は「ルールですから」の一点張りだった。今井は、長年住んできて、そんなルールは見たことも聞いたこともなかった。

 2011年の東日本大震災後にも一悶着があった。耐震性に不安を抱えていた今井や一部の住人が、理事の一人に耐震補強の必要性を訴えたことがある。しかし、「どれだけ金がかかるか分かっているんですか」「あなたにそのお金が払えるんですか?」とまるで相手にされなかった。食い下がり、せめて理事会で議論してほしい、と伝えたが意に介す様子はなかったという。

 住み込みの管理人として働いていた夫婦が、今井に相談を持ちかけてきたこともあった。 

 そこで、今井は改めて理事会のいびつさを痛感した。

「朝の4時に起きて掃除をして、夜は理事長が帰宅するまで待っていないと怒られるというんです。住み込みとはいえ、毎日ヘトヘトになるほどの働き方を強いられている、と。労働基準監督署にも駆け込んだが、理事長が辞めさせてくれない、と困り果てた表情で訴えていたのです。そして、親族が区分所有者であるため、『辞めると家族がイジメられるから辞められない』と私に打ち明けていた。驚いたのは、そこまで尽くしてきた管理人夫婦の退職理由として、理事会の報告書の中では『夫婦喧嘩が絶えなかった』という記載があったことでした」