「ベイツ殺害犯はゾディアックではない」

 ベイツ殺害事件が起きたリバーサイドにある大学で図書館職員を務めていたロス・サリバンも、この事件の数日後、姿を消したことから疑いをかけられた。サリバンはゾディアックの似顔絵に似ており、1967年には、最初の事件が起きたベイエリアに引っ越していた。双極性障害と統合失調症という精神的問題も抱え、数回入院もしていた。べリエッサ湖で起きた殺傷事件では、ゾディアックはアーミー・ジャケットと軍用ブーツを身につけていたという証言があったが、サリバンも同様のものを所持していた。

 同じく、ベイツ殺人事件が起きた時、リバーサイドに住んでおり、スタイン殺害事件が起きた時には犯行が起きたサンフランシスコの現場近くに住んでいたアマチュア無線技師で映写技師のリチャード・マーシャルも被疑者扱いされた。マーシャルの場合、特にゾディアックと多くの類似点があることが注目された。マーシャルは『レッド・ファントム』という古い映画を好んでいたが、この映画についてはゾディアックも手紙の中で触れていた。また、彼はアパートの地下に住んでいたが、ゾディアックもそのことに言及していた。さらに、ゾディアックの手紙に使われたのと同じタイプライターも持っていた。マーシャル自身もゾディアックと多くの類似点があるとは認めたものの、自身がゾディアックであることは否定している。また、事件を長年捜査してきたリバーサイド警察も、ベイツ殺害犯はゾディアックではないと発表している。

海軍予備役で暗号を学んだ男

 ゾディアックの関与が疑われている事件の一つに、1970年にレイク・タホという北カリフォルニアの湖畔にあるカジノホテルで看護師として働いていたドナ・ラスという女性の失踪事件がある。2023年、ドナの頭蓋骨がホテルから 約110キロ離れた場所で発見された。ドナと同じホテルで働いていたのがローレンス・ケインだ。海軍予備役だったケインは、海軍で暗号を学んだ可能性があった。また、自動車事故で脳が損傷を受けたため、衝動を抑えることができなくなっていたのか、のぞき見や徘徊で逮捕されたこともあった。捜査した刑事はゾディアックの暗号文にケインの名前が埋め込まれていると主張。スタイン殺害直後にゾディアックを目撃したという警官やゾディアックに誘拐された可能性があるキャスリーンも、ケインはゾディアックに似ていると証言している。

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 近年、ゾディアックではないかと目されたのがゲイリー・フランシス・ポステという空軍の退役軍人だ。2021年10月、未解決事件を捜査しているボランティア・チーム「ケース・ブレーカーズ」がポステがゾディアックの可能性があると発表し、米メディアに注目された。

 また、2023年に、同チームは、ポステが、殺人事件のデータベースでゾディアックの容疑者として秘密裏に登録されており、ポステの「部分的な」DNAサンプルを連邦捜査局が所持しているという話をFBI捜査官から聞いたと言う内部通報を得たという。チームは、法執行機関が発見したポステのDNAと、犯罪現場のDNAを照合してほしいと訴えている。