しかし、アレンの指紋は、被害者ポール・スタインのタクシーで発見された、ゾディアックのものと考えられる指紋やゾディアックの手紙から見つかった指紋と一致しなかった。また、彼のDNAはゾディアックのものとされる封筒に付着していた唾液から作成されたDNAプロファイルとも一致しなかった。そのため、アレンは被疑者リストから除外された。
次々に候補から外されるゾディアック事件の容疑者たち
サンフランシスコでカウンターカルチャーの新聞を編集していたリチャード・ガイコウスキーも疑いをかけられた。元同僚が彼がゾディアックだと告発し、一緒に暴力行為をしようと彼に誘われたと訴えたからだ。また、自身を「ゴールドキャッチャー」と名乗るある告発者が、ガイコウスキーの音声録音をテレビ番組「ヒストリーチャンネル」に提供したが、ゾディアックからの電話を受けたという警察の電話通信員が音声録音はゾディアックの声と同じだと思うと指摘したこともガイコウスキー犯人説に信憑性を与えた。
しかし、「ゴールドキャッチャー」は陰謀論者と見られており、レイク・ハーマン・ロードで殺人事件が起きた時、ガイコウスキーは国外にいたと主張している。また、警察もガイコウスキーのDNAサンプルをゾディアックのDNAサンプルと比較しようとはしなかった。
自分の父親がゾディアックだと訴える者も現れた。ゲイリー・スチュワートは、ニューヨーク・タイムズ・ベストセラーになった2014年の著書『最も危険な動物』の中で、実父のアール・ヴァン・ベスト・ジュニアがゾディアックだと主張した。スチュワートによると、実父は目撃証言を元に描かれたゾディアックの似顔絵に似ており、殺人当時はカリフォルニア州に住んでいて、暗号に興味があったからだという。また、スチュワートはゾディアックの暗号文の中に実父のイニシャルを見つけたことや、筆跡鑑定士がベストが結婚証明書に書いた筆跡がゾディアックの筆跡と一致したと判断したことも根拠として主張している。
しかし、専門家がスチュワートが用いた暗号解読法を疑問視したこと、筆跡もマッチしているとは言えなかったこと、角縁メガネをかけた“クルーカット”と言うヘアスタイルは、1960年代には珍しいルックスではなかったことなどから、ベスト・ジュニアはゾディアックではないと見なされた。
デニス・カウフマンは、亡き義父ジャック・タランスがゾディアックであると主張した。その理由として、義父がゾディアックの似顔絵にそっくりなこと、ベリエッサ湖で起きた事件で犯人が身につけていたという奇妙なフード付きの衣装を義父も持っていること、筆跡鑑定士が義父とゾディアックの筆跡が一致していると述べたことなどをあげている。
しかし、警察側は、フード付きの衣装は目撃証言と比べて粗雑であったことや筆跡鑑定士の信憑性を疑問視し、カウフマンの証言を却下した。


