殺害に同行させられた子供たち
もっとも、メディアは、事件当時、第一容疑者と目されていたものの証拠不十分から逮捕には至らなかったアーサー・リー・アレンに今も注目している。昨年10月には、ネットフリックスがドキュメンタリー番組「This is The Zodiac Speaking」の中で、子供の頃からアレンのことを知っているというシーウォーター家のコニー、デイビッド、ドンの3人が登場し、驚くべき発言をして注目された。彼らは、子供の頃、アレンが犯す殺人に同行させられた可能性があるというのだ。
1963年末、彼らはアレンに連れられてタヒグアス・ビーチに行くが、アレンは彼らを車の中に置き去りにして姿を消したという。アレンは1時間ほどして息を切らしながら戻ってきたが、その手は真っ赤に染まっていたという。その翌日、そのビーチでは、銃殺された10代の男女の遺体が見つかった。犯人はまだ捕まっていない。
前述したベイツ殺害事件が起きたリバーサイドにも、事件が起きる直前の1966年10月28日、アレンはコニーとデイビッドをカーレースに連れて行っていた。10月30日の夜、彼らは何も思い出せないほどの深い眠りについたが(後にアレンは彼らに薬を飲ませたと告白したという)、その10月30日にベイツの遺体が見つかっている。そのため、彼らはこの2つの事件の背後にはアレンがいる可能性があると考えている。
また、デイビッドは、アレンに「あなたはゾディアックなのか?」ときくとアレンは泣きながら“YES”と告白したと話している。デイビッドは警察にそのことを伝えたが、対応してくれなかったという。そのアレンは、1992年、心臓発作により58歳で亡くなった。
また、アレンが児童に対する性虐待の罪で服役していた期間、ゾディアックによる殺人が起きておらず、警察や新聞社にゾディアックからの手紙が来なかったことも、アレンがゾディアックであることを示唆しているとする声もある。
アレンがゾディアックだったのか?
そうだとしたら、なぜ、アレンは凶悪な連続殺人犯となったのか?
ゾディアックについての著書『ZODIAC』を書いたロバート・グレイスミス氏は、アレンがシーウォーター家の子供たちやその家族に惹かれたのは、彼がパートナーや家族を熱望していたからではないかとの見方を示している。一方、アレンは、地下室で母親と淋しく暮らしていた。
ゾディアックが犯したことが確認されている4件の殺人事件のうち3件の死傷者は幸せそうなカップルだった。幸せではなかったアレンの羨望が、銃やナイフを彼の手に取らせたのかもしれない。



