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懐中電灯に浮かび上がった足は、踝(くるぶし)から膝関節の上までが骨だけになっていた。血の気のない生白い足首は泥にもまみれずに、風呂上がりのようにふやけて、生々しかった。麓から山頂へ吹きあげてくる風は、昼間の暑さと悪夢が嘘のように心地よさを通り越した冷気を運んできて体を震わせた。遺体を包むために用意された毛布を借りて、横になった。すぐかたわらには、明日、ヘリで運ばれる遺体が並んでいた。
「いま直ぐ私の命を返してください!」
燻り続ける御巣鷹山の狭い山頂の片隅に置かれ、毛布に包まれた遺体。その毛布の結び目の先から僅かに覗く指先──その親指の爪には、濃いパールピンクのマニュキュアが塗られていた。
その鮮やかな色彩が、木の隙間から射し込んだ光に浮かび上がった。そして、あたり一面モノト─ンに変わり果てた光景のなかで、異彩を放っていた。
「どうして私たちが犠牲にならなければならなかったの……どうして?」──一瞬にして命を奪われてしまった犠牲者の無念さが──「死にたくなかった。いま直ぐ私の命を返してください!」と私に語りかけてきた。
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