少年犯罪の裏にある“マノスフィア”の影響

 そして、第3話の心理療法士との対話で明らかになるジェイミーの本音や感情を吐露する言葉から、かなり明確にマノスフィア的な思想を読み取ることができる。マノスフィアとは、一般的には男性がより“男らしく”なる方法や異性との関係構築に関するアドバイスを提供するオンラインコミュニティの総称で、往々にして男性の孤独や社会的挫折の原因がフェミニズムにあるとするなど、女性蔑視的な見解が見られるとされている。

 まだ13歳の少年が、このような考えに基づき行動しているのかと驚きを禁じ得ないが、父親が望むような“男らしさ”に自分は応えることができず、 “非モテ”のレッテルを貼られたジェイミーは、自らを正当化する理由をマノスフィアという考え方に求めてしまったのだろうかと推測することができる。

Netflix公式Xより

 本作で真に恐ろしい瞬間は、ジェイミーが被害者の少女や女性の心理療法士に対して支配的で蔑視的な言動を垣間見せる瞬間だ。「女性とはこういうものだろう」といった浅はかなステレオタイプで「男性」として優位に立つという発想を、どうやったらジェイミーのような子供が体得して実践することができるのか。そして、その情報源がSNSを介したものだとするならば、家庭や学校、あるいは社会は、どうやってそれを未然に防ぐことが可能なのだろうか?

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 先に挙げたイギリスで実際に起きた少年犯罪だけでなく、世界各地で似たような事件は起きている。そうした事実を踏まえた上で、どうやったらこうした事件が防げたのかと考えるとき、それがどれだけ困難であるか、問題の根深さを『アドレセンス』はフィクションとして誰もが自分ごとに思えるように臨場感を持ってわかりやすく突きつける。だからこそ、人々は漠然と抱いていた問題意識を喚起されて議論を交わさずにはいられないのだろう。

【参考文献】
https://www.mylondon.news/news/tv/netflixs-adolescence-inspired-true-story-31201349

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