15歳の少女が惨殺された事件がモデルに

 賞レースを席巻する理由はこれだけでも十分だが、各国で議論を生むに至った理由、本作の真価は、このような野心的な手法を使って現代社会に警鐘を鳴らしたいと考えたグレアムとソーンによる脚本にほかならないだろう。

 グレアムは、ラジオ・タイムズ紙の取材で、本作は2023年9月にロンドン南部のクロイドンで起きた15歳のエリアンヌ・アンダムを17歳のハッサン・センタムが惨殺した痛ましい事件に着想を得たと語っている。クマのぬいぐるみを巡る些細な対立の中で起きた事件では、加害者センタムが怒りっぽい行動で知られていたこと、軽い侮辱に対して過剰な攻撃を行ったことなどが事実として明かされている。

 また、グレアムはイギリス中部リバプール近郊のサウスポートで2024年7月に起きた、子供向けのダンス教室を近くに住む17歳のアクセル・ルダクバナが襲撃し、3人の幼い少女たちを刃物で殺害した事件にも影響を受けたとして例に挙げた。

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Netflix公式Xより

 これらの事件からグレアムが考えたのは、背景には今や子供たちの日常の中心にあるとも言えるSNSやネット上の情報が、子供たちに大きな影響を与えている可能性があるのではないかということだった。そのことをテーマに据えて、ドラマは子供たちを取り巻く社会=学校や家庭環境がどうであったのかをじっくりと浮き彫りにする。

 視聴者の興味は、ジェイミーが好意を寄せていたという被害者の少女に対する暴力行為に向かわせた原因を突き止めたいという短絡的なものだが、本作はその答えを与えてはくれない。あくまでも考え得る要因が提示されるだけだ。