大手間の車両譲渡は「45年ぶり」のレアケース
大手私鉄の通勤電車はだいたい20年から30年で引退する。減価償却期間は13年だけれども、実際はもっと長持ちする。引退の理由は老朽化ではなく、主にサービス向上のために新車と入れ替えるからだ。スピードアップや最新の信号設備の導入、相互直通運転に対応するタイミングで新車が入り、現役の電車はところてん式に押し出される。
引退した通勤車両の多くは解体されてしまうけれど、状態の良い車両は運行頻度の低い支線に転用させられるか、中小私鉄に譲渡される。中小私鉄は経営難だから、新車を発注するよりも程度の良い中古車両を買って走らせたいわけだ。大都市の通勤電車は激務だったけれども、ローカル私鉄ならまだまだ頑張れる。読者の方々も遠く離れた旅先で、通学や通勤で乗っていた電車に再会し、懐かしく思った経験があるかもしれない。
一方、大手私鉄から大手私鉄への車両譲渡はとても珍しい。しかし、ゼロではない。大正期に目黒蒲田電鉄(後の東急電鉄)から阪神急行電鉄(後の阪急電鉄)へ譲渡した事例がある。また、戦後の混乱期は大手私鉄も経営困難で、運輸省(当時)が国鉄63系電車を大手私鉄に割り当てた。それを大手私鉄間で融通するという事例があった。中でも名鉄から東武や小田急への譲渡などが知られている。
近年の例として、1975年と1980年に東急電鉄の電車が名古屋鉄道に譲渡された。名古屋鉄道沿線の通勤需要が増大し、通勤用ロングシート車両が不足したところで、ちょうど東急電鉄が車両の売却を決めたからだった。そこから数えると、大手私鉄同士、今回の小田急電鉄から西武鉄道への車両譲渡は45年ぶりである。まさに電撃移籍(電車だけに)。
今回、西武鉄道は小田急電鉄の電車を買った。実は西武鉄道はもう1車種、東急電鉄の9000系電車も購入予定だ。小田急と東急から、2030年度までに約100両を購入予定としている。