三者三様の片思いは坂元がこだわってきた関係性の表れ
メインで登場する3人には、それぞれに想いを届けたい相手がいる。美咲は、同じ合唱団で伴奏をしていた典真(横浜流星)に淡い恋心を抱き、優花は、母・彩芽(西田尚美)と再び心を通わせたいと願い、さくらは、自分を殺した元少年A・増崎(伊島空)に、なぜ自分が殺されなければならなかったのかを聞きたかった。
恋愛としての片思い、母娘の家族愛、そして加害者との対峙。この三者三様の「片思い」こそ、坂元がこれまで大切に、そして執拗なまでに描いてきた関係性の形だと言える。
まず、恋愛における片思い。これは彼の作品において、常に肯定的に描かれてきた。
「いいんです、わたしには片思いでちょうど。行った旅行も思い出になりますけど、行かなかった旅行も思い出になるじゃないですか」(『カルテット』すずめ/満島ひかり)
「片思いだって五十年経てば宝物になるのよ」(『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』静恵/八千草薫)
一般的に恋愛は両思いが成就とされるが、坂元作品においては、人を思うこと自体に価値があり、片思いは決してネガティブなものではない。誰かを想ったその瞬間にこそ、十分な意味があるという思想は、過去の作品から一貫して感じられる。
次に母娘の関係性。『Mother』(日本テレビ、2010年)では、虐待する実母から7歳の少女・怜南(芦田愛菜)を連れ去り、偽りの母となることを決意した奈緒(松雪泰子)の姿を通して、単なる保護欲を超えた、深く献身的な愛情を描いた。シングルマザーとして二人の幼い娘と息子を育てながら過酷な現実を生き抜く小春(満島ひかり)を描いた『Woman』(日本テレビ、2013年)では、娘たちへの愛情が、彼女の生きるための強い原動力となっていた。母娘の間に流れる複雑だが尊い愛情が、坂元作品においては重要なテーマとなっている。
そして、殺人犯との対峙というテーマは、『それでも、生きてゆく』(フジテレビ、2011年)において最も深く掘り下げられた。加害者である少年Aこと文哉(風間俊介)の人物像が徐々に明らかになる中で、被害者家族である洋貴(瑛太)と、加害者の妹・双葉(満島ひかり)の交流を通して、それぞれの内面に深く迫ろうとした。加害者家族の苦悩、被害者家族の悲しみと赦し、そして社会の無理解と偏見がリアルに描かれ、感情の断絶や立場の違いから生じるディスコミュニケーションを浮き彫りにしたのだ。
本作で彩芽が増崎を問い詰める際の描写は、『それでも、生きてゆく』第10話における洋貴と文哉のやり取りを彷彿とさせる。感情的になりながらも言葉を尽くし、歩み寄ろうとする洋貴に対し、文哉はまるで人間の心を失ったかのように紙ナプキンをいじくり始める。どんなに言葉を尽くしても、その思いが届かない相手はいるという点で、本作とも共通するテーマを内包していたと言えるだろう。

