海中にいるAさんから船上で作業していたAさんの妻に船上への浮上の合図があったのだ。Aさんが新しいタンクを背負って潜ってから10分も経っておらず、通常はこれほど短時間で浮上してくることはない。Aさんの妻が海面を見たところ、ホースのまわりを泡が回っているのが確認できたという。

 矢野は泡が回る理由をこう推察している。

〈被害者は、海底付近でサメに遭遇し、浮上合図を船上に送り、浮上中サメが被害者の回りを回っていたものと考えられる。(中略)(すなわち、サメの回転移動にあわせて、被害者の浮上位置もホースを中心に回るように変化していたことがうかがえる)〉

 サメは海中で出会った対象物を調べたいとき、その周囲をぐるぐると回るという。それに対して、Aさんはパニックになることなく、サメの動きにあわせて自身も回転しながら、その動きを見定めようとしたのだろう。浮上合図から1~2分が経過したそのとき――。

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「サメの目測の長さは5~6メートル」

〈海中から大型サメが被害者をくわえて飛び上がってきた。その後すぐにサメは潜水し、被害者は海面に吐き出された。僚船がかけつけて被害者を船上に引き上げた後に、サメが再び海面に姿をあらわした〉

 その後もサメは現場海域にしばらくとどまっているところを目撃されている。

 目撃者は〈サメの背側の体色は黒色か黒褐色であり、非常に大型であった。(中略)船の大きさと対比したときのサメの目測の長さは5~6m〉と証言している。

 被害者のAさんはただちに病院に搬送されたが、ほぼ即死状態であったという。

〈(Aさんの)傷等の状況は、右腕、肩、右側肋骨の全部位と、肝臓の3分の1がなくなっていた。左側肋骨部は脱臼をしていた。傷口は、非常に鋭利であった。傷の大きさは、約50cmであった〉