名古屋から“一番近い島”として知られる愛知県・日間賀島(ひまかじま)。この周辺の海域で、戦前から戦後にかけての12年のあいだに8件のサメによる襲撃があり、襲われた全員が死亡しているという。この知られざる「人食いザメ事件」はなぜ起きたのか? さらに、1995年にも周辺の海域で痛ましい死亡事故が発生していた。(全4回の3回目/#4に続く)
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日間賀島で起きた「別の襲撃事件」
私が日間賀島のことを知ったのは6年ほど前、ふと「日本でサメが人を襲ったケースは実際どれくらいあるのだろうか?」と疑問を持ったことがきっかけだ。
故・矢野和成博士による論文に掲載された表をもとに、1938年から1950年までの12年の間に、日間賀島から篠島(しのじま)にかけての狭い海域で実に8件のサメによる襲撃が起き、襲われた全員が死亡していることがわかった。これだけ狭い海域でサメの襲撃による死亡事故が続いた事例は、日本では極めて異例であることは言うまでもない。
1950年を最後に日間賀島ではサメによる襲撃は起きていない。さらに調べるうちに、1947年に起きた事故以外にも、日間賀島で起きた「別の襲撃事件」のことがわかってきた。
実際には19歳もしくは20歳のはずだが…
私の手元に「サメ類の被害防止、生理、生態に関する研究報告」(※1)という冊子がある。
1995年4月9日に愛知県渥美半島1kmの沖合いで潜水漁業者がサメに襲われて死亡した事故の検証をきっかけに、専門家の有志が中心となって1996年3月に刊行された。
私が日間賀島で被害者の遺族の証言を得た久野久芳さんの事故については、このような記述が残されている。
〈当時、肥料として珍重されていたコヌカサ(モミジガイ=ヒトデの種類)取りを潜水で行っていた15、16才の少年が襲われた事故記録もある〉
被害者である久芳さんの年齢は実際には19歳もしくは20歳のはずだが、写真では少し幼く見えるので、15、16歳と判断されたのかもしれない。