ウエットスーツの右上半身部分は嚙みちぎられている
レポートにはAさんが着用していたウエットスーツの写真も掲載されているが、右の上半身部分が丸々噛みちぎられており、その凄惨さは見るものをして声を失わしめる。
だが、このウエットスーツに残された噛み跡、さらには後に海底から引き上げられたAさんの潜水タンクのハーネス部分に残っていた歯形によって、Aさんを襲ったサメの種類が特定された。
ホホジロザメである。
最大で7メートルに達することもある大型のサメで、S・スピルバーグ監督の映画『JAWS』に登場するサメのモデルとされ、人間を襲うことが最も多い種である。アメリカ沿岸やオーストラリアなどに多いが、実は日本近海にも分布しており、北海道で網にかかった例もある。
前述した通り、1995年にAさんが襲われた海域は日間賀島からは目と鼻の先の距離だ。時代は異なるが、戦前から戦後にかけての日間賀島における連続襲撃の“犯人”もホホジロザメだった可能性はある。
矢野は、“シャークアタック”が起きやすい条件とその対策をまとめている(※3)。
サメ類の魚影が濃い海外での研究も重ねていた矢野の指摘のなかで、とりわけ私の注意を引いたのは、次の項目だった。
〈カリフォルニア、南アフリカなどでは、一度でもホホジロザメによる人間への攻撃があった場合、同一海域で再度人間への攻撃が行われたことが知られている(同一個体かは不明)。それらの場所では、餌生物、環境状況等がサメの生息に適している場合があると考えられるため、十分な注意が必要である〉
日間賀島の連続襲撃は、ホホジロザメによるものだったのだろうか。最大の謎は当時の連続襲撃が単独のサメによるものなのか、それとも複数のサメによるものなのか、である。
この謎を解く手がかりを求めて、私はある人物のもとを訪ねた。
【参考文献】
※1 「サメ類の被害防止、生理、生態に関する研究報告」(1996年3月「愛知県サメ生態等研究会」による)
※2 「1995年4月9日愛知県渥美半島沖合いで潜水漁業者へのサメの攻撃による事故の状況記録」矢野和成(「サメ類の被害防止、生理、生態に関する研究報告」所収)
※3 「日本におけるサメ類の被害状況と海中作業時の注意点」矢野和成(「サメ類の被害防止、生理、生態に関する研究報告」所収)
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