日本のプロ野球にはさまざまな金字塔がある。例えば、王貞治が生涯に放ったホームランの数である「868本」はその一つだ。しかし、それ以上に難しい記録があるという。『野球の記録で話したい』(広尾晃著、新潮社)から一部抜粋し、お届けする。(全3回の2回目/前回を読む続きを読む

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プロ野球における金字塔の中でも突出して難易度が高い「金田の400勝」 ©takasu/イメージマート

「王の868本」より難しい「金田の400勝」

 王貞治の868本塁打の更新は至難の業ではあるが、MLBで主流になっている「フライボール革命」がNPBでも普及して、素質ある選手が純粋に「本塁打だけ」を狙うようになれば、王の記録に迫るのは「絶対に不可能」とまでは言えない。しかし金田正一の400勝は「投手の分業」「ローテーション」という今の野球が変わらない限り、更新は不可能だ。

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王貞治の「ホームラン868本」もスゴい記録だが、金田正一の「400勝」はもっと難しい ©文藝春秋

 金田は1950年にプロデビューし、1969年に引退した。キャリア20年で400勝、毎年20勝を20年間続けたことになる。2005年から2024年までの20年間、両リーグで最も勝ち星を挙げた投手の勝利数を合算しても、340勝にしかならない。

 この間、20勝投手は2008年、楽天の岩隈久志(21勝)、2013年同じく楽天の田中将大(24勝)の2人しか出ていない。プロ野球というスポーツが、大きく変わらない限り、金田正一の記録はすべての投手の上に輝き続けることになる。

 筆者は、金田の現役時代を辛うじて知っているが、それは巨人の背の高いベテラン投手としてだった。大スターの長嶋茂雄を「おい、シゲ!」と呼び捨てにするなど横柄な印象だったが、金田正一の全盛期は巨人時代ではなく、同じセ・リーグの国鉄スワローズ時代だった。