愛媛県側のバスと乗り継げるダイヤ

 戦後の国鉄時代、高知への乗り入れが実現し、全長123kmの松山-高知間を1本のバスが走った。急行や夜間急行が運行し、特急化も図られた。

 国鉄の民営化後はJR四国バスが営業したものの、高速道路網が整備された。四国の都市間交通は高速道路がメーンになり、松山-高知間も高速バス化された。廃止された国道のバス路線は、黒岩観光バスが愛媛県境から佐川までを引き継いだ。

「現在の黒岩観光バスは営業区間が短縮され、県境までは行っていません。その区間は仁淀川町営バスが引き継ぎました。愛媛県側の久万高原町営バスと乗り継げるようにしています」と職員は語る。

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 では、高知県と愛媛県が共同で「コミバス旅」のコースを設定すれば、高知から松山までの一大旅行ができるだろうか。1日では到着せず、日中だと月曜と木曜しか移動できないダイヤなので、かなりの工夫が必要になるルートだ。

「中津渓谷」とは別方向へ行くバスだった

 話を「土佐大崎」もしくは「大崎」での乗り換えに戻そう。

 黒岩観光バスを下りると、次は仁淀川町営のコミュニティバスだ。

 バス待合所には、既にマイクロバスが止まって待っていた。「仁淀川町」のマークがある。

「中津渓谷へ行きますか」と尋ねた。人のよさそうな運転手が「行きますよ。『名野川(なのかわ)』で下りてください」と教えてくれた。その気さくさに引き込まれるようにして乗りかけたが、「名野川? 中津渓谷のバス停ではないのか」と気づいた。

「大崎」。路線バスを下りると、仁淀川町の「町民バス」が待っていた。危うく乗りそうになる

 少しややこしいのだが、「名野川」は高知-松山間を結ぶ国道33号沿いのバス停だ。確かにここで下りても中津渓谷には行ける。ただし、国道から山へ入る県道の坂道を約700m歩かなければならない。重い荷物を持った人や高齢者には大変だろう。このためもあって、県の「コミバス旅」では「中津渓谷」のバス停に直接行ける路線を紹介していた。

 バス待合所に停車していたのは「名野川」を通るものの、「中津渓谷」とは別方向へ行くバスだった。

渓谷に直接行けるバスに乗る

 運転手に「中津渓谷に直接行けるバスはありますか」と聞き直すと、「すぐに別のバスが来ますよ。ほら、あそこでおじいちゃん、おばあちゃん達が待っているでしょう。皆さん乗られますので一緒にどうぞ」と、またもや気さくに教えてくれた。

「北川」行きのコミュニティバスが「大崎」に到着。3人のおじいちゃん、おばあちゃんが乗る

 このバスが出発した後、4分ほどでワゴン車タイプの小さなバスが到着した。

 大きな荷物を持った3人の高齢者が乗り込む。

「中津渓谷は止まりますか」と一応尋ねてみた。「はい、どうぞ」と運転手。今度は渓谷に行ける。