10分ほどの乗車し、「引地橋の花桃」を通る

 四国山地の道が果てるような集落へ向かう路線で、「中津渓谷」まではそのうち10分ほどの乗車だ。

 車窓から仁淀川が見えた。特産の茶畑が広がる。赤やピンクの花が一面に咲き乱れる「引地橋の花桃」の横も通りすぎた。車窓の風景を見ているだけでも楽しい。

コミュニティバスの車窓から茶畑が見えた

方言が聞けるか、さっそく話しかけた

 県のHPには、「コミバス旅」の醍醐味として「日常生活の『足』として運行している町民バスならではの地元の方とのふれあいもあるかも」と書かれていた。

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 齊藤主幹や西森チーフには「方言が聞けるかもしれませんね」「『どっぷり旅』ならではの楽しみ方ができますよ」と言われていたので、さっそく話しかけた。

 だが、朝から遠路のバス移動や通院などで疲れたのか、おばあちゃん2人はすぐにこっくりこっくりと舟をこぎ始めた。残るはおじいちゃんだ。

「買い物ですか」「そうそう。どこから来たの」。会話が始まる。

 おじいちゃんは、「中津渓谷」からさらに深く分け入った北川という地区に帰るところだった。朝の便で「大崎」に下りて来て、買い物などを済ませたのだという。

「北川もどんどん過疎化が進んでいるから、週に1往復しか運行していないんですよ。不便は不便だけど、慣れれば大したことはない。バスで大崎へ行った時に用事は全て済ませられるよう工夫しています。でも、このバスがあるから暮らしていける。生命線ですね」

 というような内容を、標準語で話してくれた。田舎と呼ばれる地域でも昔と違い、きれいな標準語を話す人は多い。

時刻表にも、このバスは載っていなかった。

 ただ、聞いているうちに疑問が膨らんだ。

 バスは「北川」行きのようだ。しかも週に1往復しか走っていないらしい。

 県のHPで紹介されていたのは「上名野川」行きで、1日3往復(土日祝日運休、昼の1往復は火曜日も運休)だ。

「どういうことだろう」といぶかっているうちに、「中津渓谷」に着く。

「中津渓谷」のバス停。「上名野川」行きの時刻は掲載されているが、「北川」行きはない

 バス停に掲示された時刻表にも、このバスは載っていなかった。

「幻のバスに乗ったのか。タヌキにでもだまされたのか」