「汚い金」を与えられた子供は幸せなのか?
──3巻では「伊達直人」による寄付の話や、寄付されたものをフリマアプリで売ってしまう習慣など、児童養護施設のお金の問題についても触れていました。
押川 児童養護施設には、物品から現金までさまざまな寄付が届きます。漫画では、寄贈された物品をフリマアプリで売る場面や、徳川園長の父親の「汚い金も子供のために使えばきれいな金になる」というセリフも登場しますが、これらはすべて実際に私が見聞きした事実に基づいています。
彼らの言うことにも一理あるのかもしれませんが、私には誰かを苦しめて得たような「汚い金」を与えられた子供が本当に幸せだとは、どうしても思えません。
また、使い切れないほどの物品や不要な寄付品を仮にお金に換えるのであれば、自分たちの施設運営のためだけに使うのではなく、5歳から15歳までの子供の精神疾患や発達障害などを扱う児童精神科医の育成や、児童精神科専門病棟の設置に使ってほしいと思っています。日本には児童精神科医が少なすぎます。お金をかけるなら、彼らの育成のために使うべきだと私は思うのです。
──児童精神科医はどれくらい不足しているのですか?
押川 児童精神科医は、2025年4月1日現在759名しかいません。地域格差も大きく、とくに地方では深刻な人材不足が続いています。
北九州市は政令指定都市でありながら、正規の児童精神科医がひとりもいないので、専門医の診察を受けたいと思ったら、わざわざ久留米市まで診察に行かなければいけない状況になっています。
児童養護施設に携わるようになって実感したことですが、この分野も既得権益や利権がはびこっています。しかも運営側が「子供のため」を常套句としてふりかざすので、誰もメスを入れてきませんでした。しかし時代は変わっています。業界団体が一丸となってより適正な運営を目指すことで、児童精神科医の育成など、真の意味で「子供のため」といえる仕組みをつくれるはずです。
まずは北九州市に児童精神科専門の診療所をつくることが、今の私の目標です。子供を救うところから北九州市をよくしていけば、日本の児童福祉分野の健やかな成長にもつながるはずです。そのために、これからも漫画での発信を続けていきます。どうかみなさん、応援してください。

