今は児童養護施設も小規模化やファミリーホームなどの地域分散化が主流となっています。これは地域の力を借りて家庭的養護を実現しようという国の苦肉の策でもあります。当法人も普通の住宅街のなかに地域小規模児童養護施設を運営していますが、近隣のおじいちゃんおばあちゃんが子供たちに畑で取れた果物や野菜を届けてくださるなど、交流が生まれています。

 さらに、「子供同士が公園でケンカしていた」と教えてもらえるなど、職員の目が届かない部分をフォローしてもらえることもあります。こうしたことは地域移行の利点だと思っています。

告発したら「あまりいじめないでくださいよ」と…

──あたりまえですが、職員の数ではなく、質が重要なのですね。

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押川 子供の問題行動ほど、大人の人間力が問われるものはないので、児童養護施設は、「人間」そのものが問われる場所だといえます。

 北九州市の児童養護施設は、先述したような子供への対応や職員の私利私欲を満たす行為が常態化していて、私は北九州市児童養護施設協議会(北養協)にも問題提起してきました。しかし一向に改善されないので、福岡県の児童養護施設協議会(県養協)の施設長会議で発表して協力要請を求めたところ、「大問題だ」となり、ようやく事態改善に向けて動き始めました。

 さらに『それでも、親を愛する子供たち』のあとがきでも告発をしたところ、北養協の会長から「押川さん、あまり自分たちをいじめないでくださいよ」と言われてしまいました。漫画は一般の方に広く児童養護施設の実態を伝える効果がありましたが、業界の人間にとっては、この「あとがき」が絶大な効果を発揮しています。今や全国の児童養護施設が、あとがきに関心を寄せているとも聞きました。特に当該当局は「次は何を書かれるのか」と戦々恐々としているようです。

──漫画もあとがきも、すべて事実に基づいている。だから、ここまでの反響があるのですよね。

押川 そうですね。私たちは、『「子供を殺してください」という親たち』でも、『それでも、親を愛する子供たち』でも、実態を真摯に描きだすことをいちばん大事にしています。個人情報には十分に配慮しつつも、「漫画だから」と誇張したり、嘘を描いたりはしていません。

 

 さらに言うなら、エピソードの元となる事例だけでなく、それに付随する社会問題や法制度といったところにまで踏み込んで描いている。だからこそ真実の重みが増し、価値があると思っています。

 先ほども申し上げた通り、私たちが描いているのは事実に基づいた事例です。真実を漫画で訴えることで、膠着していた事態が動いていくのを感じています。

 連載を始める前から覚悟していたことではありますが、ここまで社会に影響を及ぼす存在になった以上、これまで以上に命がけで戦うつもりです。3巻まではこれでも比較的軽いケースを選んで漫画化していますが、これからはもっと重いケースもどんどん登場します。業界にとっても、一般の方にとっても「恐怖の漫画」になってくると思います。