虐待や育児放棄(ネグレクト)など子供たちを取り巻く過酷な現実を描いたコミック『それでも、親を愛する子供たち』の原作者、押川剛さん。舞台となる児童養護施設には根深い問題があると語る。児童養護施設に潜む闇とは。押川さんの夢についても聞いた。(全3回の3回目/最初から読む)
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「子供を食い物にして私腹を肥やすなど言語道断」
──押川さんは現在、児童養護施設を運営する社会福祉法人で理事長もされています。お忙しい押川さんが、なぜ理事長も務めることになったのですか?
押川剛さん(以下、押川) 2023年にある社会福祉法人の理事に就任したのですが、児童養護施設の運営には莫大な公金が降りているため、あまりにも私利私欲しか頭にない人間の多さに辟易したからです。
児童養護施設は慢性的な人手不足が続いています。一方で、キャリアや勤続年数が長い職員を配置することで、加算が付いて公金(措置費)も増える仕組みになっているので、施設側は職員に少しでも長く働いてもらおうと、子供との関係性や行事予定などはおかまいなしに、職員の都合優先のシフトが組まれていました。
また、職員を不正に配置して措置費を請求する、購入していない設備品を申請して助成金を得るといった行為も発覚しています。施設の新築移転に使われた巨額の公金にも不正や不適切な流用があり、挙げればキリがありません。今は証拠を精査し、関係各所に相談しながら、民事・刑事訴訟の手続きをとっているところです。
自己都合や私利私欲のかたまりのような親に育てられてきた子供を、食い物にして私腹を肥やしたり、好き勝手にふるまったりするなど、言語道断です。理事としてこうした状態を徹底的に正していくうち、前理事長を始め複数の役員が辞任もしくは解任されました。誰がこの不正の尻拭いをするのか、となったときに、周囲から「押川がやるしかないだろう」と推挙され、2024年8月に社会福祉法人の理事長に就任しました。
──民間企業でも「働き方改革」に悩む企業は多いですが、人間相手の仕事は難しく責任も重い。なり手も少ないのではないでしょうか。
押川 児童養護施設に限らず、児童福祉の分野では慢性的な人手不足が課題となっていますが、だからといって自己本位で偏った考え方の職員は、子供にとって悪影響でしかありません。
例えば今は子供のプライベートゾーンを守るために、職員による肩車など過度な身体接触は厳禁とされています。表にはあまり出ませんが、児童養護施設は小児性愛者が紛れ込みやすい職場でもあるのです。しかし中には、「肩車ができないなんて、子供と触れあえない」と頑なに考えを変えない職員もいました。この職員は元警察官でしたが、子供に体操をさせるんだと私的に体操器具を持ち込んでもいました。相手が「子供」となると、ここまで好き勝手にできてしまうのです。
他にも「子供がそうしたいと言っているから」という理屈で私的に物を買い与えたり、未成年者がタバコを吸っても注意しなかったり、そのような職員の関わりが横行していたのです。
私が「子供のためにならない職員は、うちの施設には必要ない」と厳しく注意したところ、「理事長からパワハラを受けた」「ベテラン職員の加算がなくなれば、園の収入が減りますよ」などと捨て台詞を吐いて3分の1が辞めていきました。

