藤井聡太名人に永瀬拓矢九段が挑戦する第83期名人戦七番勝負(主催:毎日新聞社・朝日新聞社・日本将棋連盟、協賛:大和証券グループ)は、第1局を藤井が勝って好スタートを切った。第2局が4月29日から30日にかけて、東京都大田区「羽田空港第1ターミナル」で行われた。
55年の時を超えて師弟が同じ作戦を指した
手番が変わって藤井の先手となり、永瀬が2手目で角道を開ける。そして選んだ作戦は飛車先保留3三金型角換わりだった。その後、3三の金を引いて、飛車先を交換させる代わりに銀冠の構えにする。7三にいる桂馬が8五に跳ねるスペースがあり、桂頭を攻められにくい。スキなく待つ方針で、かなり凝った組み合わせの作戦だ。最初に用いたのは斎藤明日斗六段で、今年3月の畠山鎮八段との順位戦C級1組で指されたばかり。斎藤は永瀬のスパーリングパートナーなので、事前に研究会で試したのだろう。
一方で10手目の局面を調べると、思わぬデータが出てきた。1970年に、永瀬の師匠の安恵照剛八段が指しているのだ。しかも、組み上がりの陣形は藤井が永瀬との王座戦第2局(2023年)で用いた右玉の陣形とまったく同じ。本局とは意味合いが違うので、ただの偶然だが、55年の時を超えて師弟が同じ作戦を指したのは興味深い。
永瀬は千日手を狙うつもりなどなかった
永瀬は慎重に手待ちしてスキを見せない。やむなく藤井は自陣角を打ち、4八金-2九飛から、金と飛車を一段ずつ上げる。この組み合わせを藤井が指したのは、公式戦だと2局しかない。1局はその後で得意の4八金ー2九飛型に組み直しているし、もう1局は後手番だ。藤井好みではない陣形を選んだところに苦心がうかがえる。
62手目を永瀬が封じて1日目が終了した。先手を手詰まりに追い込んで、千日手になれば後手満足という形勢だったが……。