カップルを標的に6人を銃殺、下半身不随になった被害者も…ニューヨークに突如、現れた連続殺人犯。犯人の目的は何なのか? 現場に残された「不可解な手紙」の意味とは? 実際に起きた事件や事故などを題材とした映画の元ネタを解説する新刊『映画になった恐怖の実話Ⅳ』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/続きを読む)

写真はイメージ ©getty

◆◆◆

 スパイク・リー監督が1999年に発表した「サマー・オブ・サム」は、1976年から1977年にニューヨークで実際に起きた連続殺人事件を背景に、セックスやドラッグに溺れる若者たちの無軌道な青春を描いたクライムムービーだ。登場人物の大半は架空のキャラクターで物語も完全な創作だが、作品の横軸として取り上げられる連続殺人は当時のニューヨークを恐怖のどん底に陥れた自称「サムの息子」による残忍極まる事件。後に逮捕された犯人のデビッド・バーコウィッツは「隣人の“サム”が飼っていた黒い犬の姿で現れた悪魔の命令に従った」と、理解不能な動機を語った。

ADVERTISEMENT

真夜中のブロンクスで響いた銃声

 1976年7月29日午前1時10分ごろ、ニューヨーク・ブロンクスのペラムベイ地区で救急救命士のドナ・ローリア(当時18歳)と友人の看護師ジョディ・ヴァレンティ(同19歳)が、ドナの自宅前に停めたジョディの車の中で互いのボーイフレンドについて語り合っていた。話が一段落し、自宅に戻ろうとドナが車のドアを開け外に出たところ、1人の男がただならぬ雰囲気で真っ直ぐ近づいてきた。怯える彼女に、男は持っていた紙袋から銃を取り出し発砲。首に銃弾を受けたドナがその場に倒れる。続けて男は運転席のジョディに弾を放ち太ももに命中させる。意識を失った彼女が前のめりに倒れると、体がクラクションに接触し大きな音が鳴り響いた。それに驚いた男は慌てて逃走。ほどなくドナの父親が現れ車で病院へ搬送するも娘は出血多量で死亡。ジョディの命は別状がなく、犯人は30代の白人男性で色白、身長175センチ程度、体重100キロ前後、髪は短く黒く、縮れ毛の見覚えのない人物だったと語った。

 警察はすぐさま捜査を開始したが、2人が誰かに恨まれていたような情報は得られず、彼氏との関係も良好。確たる動機が見つからず通り魔的な犯行と推測する。ただ、聞き込みにより事件当夜、現場近くに見慣れぬ黄色のコンパクトカーが停車しており、運転席にジョディの目撃証言に近い男性が座っていたとの情報が複数の住民から得られた。

 3ヶ月後の同年10月23日、クイーンズ区フラッシングの閑静な住宅街で、銀行の警備員男性カール・デナーロ(同20歳)と、女学生のローズマリー・キーナン(同18歳)が襲われる。交際中の2人が車を停め中で話をしていたところ、突然窓ガラスが割られ何かが爆発したような音が響いた。パニックに陥った彼らは慌てて車を発進。

 このときカールが窓越しに後頭部を撃たれひどく出血していたにもかかわらずそれに気づかず、手術で頭蓋骨の一部を金属板で補強し一命を取り留める。ローズマリーは割れたガラスによる傷を負っただけだけで、2人とも犯人の姿は見ていなかった。