警察が車体にめり込んだ弾丸を調べ、それが44口径であることを突き止める。が、彼らが狙われる理由らしきものは一切見つからない。実は、前出のドナとジョディの事件に使われた銃弾も44口径だったのだが、発生場所がブロンクスとクイーンズと異なっていたため、管轄の警察署も別。両事件が関連づけられることはなかった。

映画「ロッキー」を観た後に撃たれたカップル

 1ヶ月後の11月27日深夜、友人同士の女子高生ドナ・デマシ(同16歳)とジョアン・ロミノ(同18歳)が映画を観た後、フローラルパーク(ニューヨーク州ロングアイランドのナッソー郡)のジョアンの家まで徒歩で帰宅し、庭でおしゃべりをしていた。

 そのとき軍服を着た若い男性が近づいてきて、甲高い声で「道を教えてください」と話しかけてきて2人が反応しようとするまもなく、男はリボルバーを取り出して狙撃。銃声を聞いた隣人が外に出ると、金髪の男が左手に銃を握り走り去っていた。本件でドナは首に被弾したものの命に別状はなし。一方、背中を撃たれたジョアンは重体で、最終的に下半身不随となる。

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写真はイメージ ©getty

 年が明けた1977年1月30日午前12時40分ごろ、秘書のクリスティン・フロイント(同26歳)と婚約者でバーテンダーのジョン・ディール(同30歳)が映画「ロッキー」を観た後、ダンスホールに向かうべく停めていたジョンの車に乗り込んだ。そのとき、突如3発の銃声が響く。助手席でぐったりとなったクリスティンを見てパニックに陥ったジョンは助けを求めて車を走らせた。幸い、彼は軽傷で済んだものの、クリスティンは数時間後に病院で亡くなる。

 この段階となり、ニューヨーク市警は一連の事件の被害者が全て44口径で撃たれていること、共通して長い黒髪の女性が狙われていることなどから同一犯の可能性が高いと発表。犯人が無差別にカップルを含む若い女性を狙っていることを公にしたことでニューヨーク中の若い女性が恐怖のどん底に叩き落とされる。同時に警察は最初の犯行で生き残ったジョディと、4件目の生存者ジョンから犯人の特徴を聞き2枚の似顔絵を作成・公開したが、その見た目はまるで異なり、複数犯の可能性もあるとして、人々の不安はより高まった。

 同年3月8日19時30分ごろ、コロンビア大学の女子学生バージニア・ボスケリシアン(同20歳)が学校から徒歩途中、路上で銃を持った男に遭遇。教科書で身を守ろうとしたものの、男の放った銃弾は彼女の頭を貫通し死に至らしめる。2日後の同月10日、ニューヨーク市警が、バージニアの殺害も同一犯で、凶器は44口径のブルドッグ・リボルバーという珍しい銃であることを発表。『ニューヨーク・ポスト』など地元紙は犯人を「44キラー」と呼び報道合戦を繰り広げるが、有力な手がかりはほとんど掴めていなかった。