現場に残された支離滅裂な手紙
事件は続く。1977年4月17日午前3時ごろ、レッカー車の運転手アレクサンダー・エサウ(同20歳)と、リーマン大学の学生でモデル志望のヴァレンティーナ・スリアニ(同18歳)が、ブロンクスの路上で停車中に襲撃に遭う。現場は前出のドナが殺害された地点からわずか数ブロックしか離れておらず、運転席のヴァレンティーナは1発、アレクサンダー2発、いずれも頭部を撃たれ死亡する。
犯行に使われた銃はまたも44口径のブルドッグ・リボルバーだった。
このとき、犯人は2人の遺体の傍に直筆の手紙を残す。内容(概略)は以下のとおりだ。
〈おまえに女嫌いと呼ばれ、俺はひどく傷ついた。俺は「サムの息子」だ。サムは血を飲むのが大好きで俺に「外に出て若者を殺せ」と命じる。俺を止めるには俺を殺すよりない。警察の皆さん、注意しろ。先に俺を撃ってしまえ。クイーンズの女たちは誰よりも可愛い。俺はあなたたち全員に幸せなイースターを祈りたい。この世と来世で神の祝福があるように。さようなら、おやすみ。俺は必ず戻ってくる。バン、バン、バン、バン、バン、うわっ! ミスター・モンスター〉
警察を嘲笑い、今後も犯行を続けることを表明したこの不可解な文章はほぼ大文字で書かれ、宛先はニューヨーク市警の警部補。警察は手紙の存在を公表しなかったが、一部新聞がすっぱ抜き、以降犯人は「サムの息子」と呼ばれるようになる。
1ヶ月後の5月30日、今度は『デイリー・ニュース』紙のコラムニスト宛に手紙が届く。封筒の裏面には中央に4行の線が正確に引かれ、手書きで「血と家族――闇と死――絶対的な堕落――44」という文字。手紙は〈犬の糞、嘔吐物、古くなったワイン、尿、血で満たされたニューヨーク市の側溝からこんにちは〉という文章から始まり〈金さえあれば、事件を担当している全員に新しい靴を買ってあげると約束する。サムの息子〉で締められていた。
心理学者や精神科医たちは手紙の内容に意味はなく、多くの連続殺人犯がそうであるように、警察や市民に注目され満足感を得ることが目的で、世間が騒ぐほどに犯行がエスカレートすると指摘。併せて、犯人は神経症の傾向があり、おそらく妄想型統合失調症で、人間関係、特に女性との関係を苦手とし、自分のことを「悪魔の憑依の犠牲者」と信じている人物と分析した。
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