2005年、ライブドア社長の堀江貴文氏がニッポン放送株の買収を開始し、経済界を揺るがす大騒動に発展した。買収の目的はどこにあったのか。“ニッポン放送買収騒動”を、当時同社の社長だった亀渕昭信氏が振り返る。
■連載「カメ社長の買収防衛日記」亀渕昭信
前編 ライブドア事件20年「当時の日記を初めて公開します」
中編 日枝さんのおっかない顔
後編 ニッポン放送を救った日枝さんとの約束
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いびつな親子関係
この騒動は青天の霹靂(へきれき)だったわけではありません。ホリエモン(堀江貴文氏)率いるライブドア、村上世彰氏の村上ファンドが仕掛けた案件と思われがちですが、私から見える様相はちょっと違います。そこでまず、ニッポン放送が買収の標的とされた原因を述べるところから始めたいと思います。
ホリエモンや村上氏は純粋にラジオ局であるニッポン放送を買収したかったわけではありません。彼らはフジテレビが欲しかった。なぜテレビ局が標的なのにラジオを買いに来たのか? それはフジテレビがニッポン放送の子会社だったからです。世間の常識だと、子会社は親会社よりも規模も売上も小さいはず。でも親のニッポン放送と子のフジテレビは違いました。子であるフジは2003年3月期決算で、資本金598億円で売上高4290億。親のはずのニッポン放送は資本金42億円で売上高1155億にすぎません。
その親子関係は具体的にはこうでした。2003年3月末のフジテレビの筆頭株主はニッポン放送で32.28%。第2位の東宝は6.82%ですからダントツです。ニッポン放送は当時、フジテレビの支配権を握っていただけでなく、産経新聞や扶桑社を傘下に持つフジサンケイグループ全体のトップに立つ会社でした。にもかかわらず、当時の株の時価総額を見ると、ニッポン放送の約1100億円に対して、フジテレビは約4500億円。つまりニッポン放送を買収すれば、その4倍以上もの企業価値を持つフジテレビが手に入る仕組みになっていたんです。
この“資本のねじれ”に目をつけたのが村上・堀江両氏でした。村上ファンドは2000年頃からニッポン放送株を買い集め、03年7月には7.37%を取得。この頃から村上氏は「狙いはフジテレビ」と公言していました。村上ファンドはその後も保有比率を高め、同年10月にはニッポン放送の筆頭株主になります。以上は買収騒動を分析する言説で、いろいろ言われてますが、私としてはニッポン放送とフジテレビが揃って上場し、狙われる状況を作ったこと自体が問題だったと思っています。


