中居正広氏の女性トラブルが端緒となり、業績が悪化しているフジテレビと親会社のフジ・メディア・ホールディングス(HD)。両社は3月27日午後に取締役会を開き、両社の取締役相談役を務める日枝久氏(87)が退任すると発表した。フジサンケイグループ代表も辞任する。

 

41年に及んだ日枝体制では、さまざまなひずみが生まれた。その一端が株主総会のあり方にも現れていた。ジャーナリスト・中川一徳氏の「日枝久・フジサンケイグループ代表への引退勧告〈渾身の告発〉」(文藝春秋2025年3月号)から一部を紹介する。

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フジ社員が総会でやらせ質疑

 日枝の背信は、恣意的な人事を駆使することに留まらず、商法で定められた会社の最高意思決定機関である株主総会にまで及ぶ。株主ひいては視聴者、社会への偽計をともなうだけに、罪はより深い。

 株主総会は昨今、IR型総会への転換が進み、株主の意思が反映される適正な運営が必須だ。一般株主に丁寧に説明し、きちんと質問を受け付けて理解を求めていかなければ、会社法違反で決議取消を問われかねない。フジテレビで近年、最も注目された買収騒動直後の2005年株主総会では何があったか(『現代』2006年4月号、『世界』2008年11月号に一部掲載)。

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日枝久氏 Ⓒ文藝春秋

 6月29日、東京ビッグサイトに約1500人の株主が集まった。議長を務める日枝は、決議事項の説明などの後、株主との質疑応答へと移った。テレビ局の場合、株主の多くは一般視聴者でもある。

 喧噪の中で、100人を優に超す株主が手を挙げた。日枝は会場を見渡し、年の頃、50代の男を指した。

「傷つかない範囲でデイトレーディングをやっています。1点だけ質問したい……」

 自己紹介をこう切り出せば、誰もフジテレビの社員とは思うまい。だが総会の実態を記した内部文書によれば、素性は、経営管理局経営管理部長の要職に就く幹部社員である。この幹部は、個人の自由意志でこんなことをしているのではない。当日、フジテレビ総務局が総会に出席するように指示した社員は会場スタッフも含め240名あまりに上った。このうち125名の社員株主は「応援株主」と呼ばれ、役職は各局の副部長から局長まで、年齢はおよそ四、五十代の幹部たちだ。彼らは休暇を取っているわけではなく、業務として参加している。