ガス抜きのため質問させる
応援株主の役割には2種類ある。30名ほどは主に部長、局長級で構成された質問要員で、残りは監視・牽制要員だ。
質問要員には、総務から事前に質問事項が個別に割り振られている。日枝が実際に誰を指すかまでは決まっていないため、彼らは辛抱強くずっと挙手を続け、一般株主を装う。
社員の応援株主は会場で身元が割れるのを防ぐために、営業、システム、ネットワーク、技術といった「テレビに顔出ししないセクション」から集められる。したがって、記者やアナウンサーは除外されるが、解説委員長、取材センター室長といった報道局幹部は7名も参加していた。彼らは、株主総会が「やらせ質問」による八百長で成り立っていることを十分認識しているのだ。
この後も、日枝は続けて3人の幹部社員を指さし、八百長質問をさせた。2人目の中年女性は、フジテレビが乗っ取られることを心配した主婦と名乗ったが、ネットワーク業務部のデスク担当部長である。3人目は映画事業局アライアンス担当部長。日枝が4人目に指名した番組審議室専任局長の質問は、少しひねってある。「ライブドアに投資する余力があるなら、株主配当を上積みしてもらいたい」と発言し、会場から拍手喝采がわいた。株価低迷で一般株主の不満が集中するテーマを、あえて幹部社員に質問させることでガス抜きをさせたのだ。
こうしたことはすべて想定問答集、つまり「台本」が用意されている。壇上の役員席には個々の前にモニターが置かれ、裏手には株主から衝立で見えないように遮られた机に局次長、部長級のサポーター37人が陣取る。その中には広報局次長だった遠藤龍之介(フジテレビ副会長、民放連会長)もいた。日枝が社員株主を指名した瞬間、質問内容がわかるので、想定問答集の回答番号をオペレーターに伝え、モニターに直ちに映し出すのだ。
日枝は冒頭から立て続けに、4人の幹部社員に質問させ、一般株主の質問を除外し蔑ろにする偽計を働いた。その狙いは、経営陣の責任追及が必至な懸案事項について、初めに「やらせ質疑」を繰り返すことで微温的な軟着陸を図り、その後でさらに激しい追及にあっても、すでに答弁し終えたとかわすためだ。