私は「人権侵害に当たる」と、鳥内さんの医療保護入院に強硬に反対した。それに呼応するかのように、他のパート職員の何人かも反対の態度を示した。
施設長はそういう意見も吟味せざるを得なくなり、結局は彼の強制入院を見送った。
人権意識の喪失した「イエスマン」に
それにしても、懲罰としての精神科病院への強制入院。利用者に対するこのような非人道的な更生への試みは、はたして他の障害福祉の現場でも行なわれているのか。
「さすがに稀なケースでしょうが」と前置きして、さる生活介護事業所の元パート職員が、こんな話を打ち明けてくれた。
「うちは5つのグループホームを管理していましたが、事業者側のリスクを減らす意味もあったのでしょう。入居者を服従させることに躍起になっていましたね。行動を厳しく制限したり、やたら滅多にペナルティを科すんです。おやつを取り上げるのはいつものことで、なかにはテレビやゲーム機まで没収された入居者もいました。
ほとんどの入居者は文句も言えず、おずおずとペナルティに甘んじていましたが、一人の男性入居者だけはそのやり方に異議を唱え、たびたび世話人や社員に食ってかかっていたんです。あるときカッとなったその入居者が、自室の壁を殴って穴を空けてしまった。そのことで、彼は精神科病院に放り込まれてしまったんです。表向きの理由は妄想による暴力性の治療でしたが、これは完全な見せしめ。懲罰以外の何ものでもありませんでしたね。
結局、彼は2ヶ月間、閉鎖病棟に入れられていましたが、この懲罰入院がよほど堪えたようです。精神科病院の閉塞的な空間のなかで生きていくより、地域のグループホームで服従的に生きていくほうがマシだと思ったのでしょう。薬物の影響もあったのでしょうが、退院後はすっかり大人しくなって、職員の顔色ばかり見るようになりました」
バリカンによる脅迫と強制入院措置の動きが、心に深いトラウマを残したのか。鳥内さんもまた、いつしか人権意識の喪失した「イエスマン」に身を落としていた。