美少女系のイラストから動物の絵に転身

あんじゅ そうやってイラストレーターを目指す方をはじめ、広く多くの人へ絵について伝えようと思ったきっかけは何かあるんですか?

フジワラ やっぱり絵を見てくれる方々はイラストに興味がある人ばかりじゃない、と長年感じてきたからです。イラストに興味のある人だったら、これは何を描こうとしているんだろう、どんな意図でこういう構図や色使いにしているのだろうと想像してくれますが、実際はそうでない人が大多数。だからいい絵を描くだけでなく、その意図を言語化して伝える努力も必要だと思っていて。

あんじゅ 私なんて毎日、一生懸命、可愛い顔ネタでツイートしてフォロワー5万人台なのに、その志で9万人超とは!(笑)。まず初期段階でどう作品をブランディングしていくかを掘り下げていくと、最初すごく絵柄に迷いませんでしたか? 

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フジワラ はい、すごく迷いました。絵柄に幅があって何でも描けたほうが有利ですし、ある程度得意なところに絞るのも手です。ただ、結局はクライアントが求めている絵柄や、必要とされるモチーフという需要によって、ある程度絞られてくる側面も大きいと思います。

 私がフリーランスになる前は、いわゆる美少女のイラスト、アニメキャラみたいな感じのイラストを描いていたんですが、その路線では勝ち目がないと気づきました。美少女系イラストは描かれる方がすごく多くて技術勝負ですし、供給の割には需要がそれほど多くない。

 では、どういうところなら多くの人に見てもらえるのかを考えたとき、私の界隈では動物の絵を描く人はほとんどいなかったので、児童向け書籍や広告の分野に絞ってマーケティングを戦略的に行ったことが、いまの作風につながりました。あんじゅ先生はどうブランディングを意識されましたか?

ノーマン・ロックウェルのようなクラシカルで温かい画風を確立
「また明日から頑張ればいいよ」©フジワラヨシト

女体盛り企画!?  駆け出しのころのあんじゅ先生秘話

あんじゅ 先にお伝えしたように記事コラムが出発点で、女社長には「あなたこの連載10回やりなさい。それを実績にして営業に行ったらいい」と言われたので、それが最初の営業ツール。あと当時ライターの世界ってけっこうアングラで、女性はあまり本名で活動しないほうがいいと言われてて、姓名判断でめちゃくちゃ画数がいいペンネームを考えました。若林は本名なんですけど、杏樹がペンネーム。これは「大大吉大大吉」みたいなものすごく良い画数なんですよ(笑)。

 この姓名判断最強のペンネームと、小さなコラムの実績がブランディングの第一歩でした。

フジワラ めちゃくちゃしっかりされてますね!

あんじゅ いえいえ、当時はアングラな仕事もやらされて手探りで……、ライターなのにグラビアやったり、なぜか女体盛りの企画まであって! 反響の大きかった女体盛り企画で全国行脚したらどうかと勧められましたが、さすがにそれは断りました。ブランディングを間違えなくてよかった(笑)。

あんじゅ先生

フジワラ 今だからこそ明かせるすごく面白い秘話ですね。ブランディングに関していうと、私の場合、前職のお酒を売る仕事が役立ったんです。酒蔵さんから仕入れたお酒を飲食店に卸す仕事でしたが、実は日本酒ってプランディングがうまいところと下手なところの差が激しい。

 上手なところは自社の蔵がこういうストーリーを持っていて、こういう醸造でやっていますと魅力的に発信されている。でも、多くのご高齢の方はうまくできないので、自分が代弁して蔵元のストーリーを作って売り込んでいました。その経験がイラストレーターとして独立したときにも、作品をストーリーとして伝えてブランディングすることに繋がりました。