G7で打ち上げた「白菊」
2023年はたまたま、7年に1度のG7の議長国と、3年に1度のASEAN+3(日中韓)の共同議長国が重なった、21年に1度の大役の年だった。議長国はそれ自体、国際社会の晴れ舞台であり、国威発揚の機会になるが、様々な政策課題の合意に向けて汗をかく貢献で世界からの評価を高めることができることに加え、アジェンダを設定したり合意文書の筆を持つことで、自国の提案した政策を国際社会に導入する機会が圧倒的に増える。
今や日本のGDPは中国の4分の1で、2025年にはインドにも抜かれる見通しだ。今後はソフトパワーで頑張るしかない中で、議長国はそれを発揮するまたとないチャンスとなる。
その時に楽しみであり、悩みでもあるのが、目玉作りである。この2023年のG7では、各国首脳が参加する広島サミットと、年内に何度か集う財務大臣・中央銀行総裁会議の中でも、ホスト国日本で開催する新潟会合が特別な存在だった。ここで歴史に残る成果、議長国としてのレガシーを打ち出すことを目標に1年以上前から準備するのである。
そのためには、政策の議論だけでなく、議長国の文化や社会の素晴らしさを認識してもらう余興などの体験の提供も大事だ。日本に来てよかった、流石、すごい文明国だ、と思って帰国していただくために、新潟でいえば、私は花火にこだわった。
新潟県内では「長岡まつり大花火大会」が「日本三大花火大会」のひとつに数えられるだけでなく、柏崎など他にも多くの有名な花火大会が競い合っている。そこで、5月12日の日本政府主催の夕食会に合わせて花火を打ち上げることを目標にしたのだ。日本文化への造詣が深く、誇りをお持ちの鈴木俊一財務大臣も強く後押ししてくださった。
ただ、大雨になったら実施できず、主催者として即死のような天候リスクもあるし、実際に調整をはじめると、爆発物規制、新潟空港の空域規制から、特殊な花火の使用権まで様々な問題が噴出した。会場の施設内に微妙な問題を抱える国の領事館を複数抱え、警備問題だけでも大変な調整をしていたF室長、N補佐、T補佐率いる財務官室には、とんでもない負担を付加することになった。
「白菊」――。これは、シベリアに抑留された経験を持つ長岡の花火師が、亡くなった戦友に捧げた特別な花火だ。
これを打ち上げるために、権利者に使用許可をお願いするレターを私の名前で送り、お許しいただいた。財務官室の秘書たちも総動員し、財務官室と財務省内や北陸財務局等の援軍の総力を結集した仲間たちの努力、親友の花角英世知事をはじめ新潟県等のご尽力の甲斐あって準備は進み、運よく天候にも恵まれた。
各国財務大臣や中央銀行総裁から最大限の賞賛を頂戴したことはいうまでもない。日本の伝統技術が持つ魅力のみならず、打ち上げを実現させた仲間たちの運営能力も素晴らしかった。
「白菊」の後、参加各国の国旗の色彩を反映した花火を順番に打ち上げ、参加国全てのワインも揃え、完全に心を掴んだ。地元自治体や財界のご協力で、歓迎レセプションでは佐渡を拠点に活動する和太鼓集団「鼓童」の演奏と地元で親しまれてきた「古町芸妓」の舞を披露するなど、全力でもてなした。
※本記事の全文は「文藝春秋」2025年6月号と、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(神田眞人「『超GDP』未来の経済指標を求めて」)。記事全文(約10000字)では、下記の内容をお読みいただけます。
・「経済」は歴史が浅い
・国民の幸福度を測定しよう
・議長国として初の問題提起
・ウェルフェアを高めるために
・霞が関3―1―1を超えて
・“幸福”の難しさと深遠さ
■連載「ミスター円、世界を駈ける」
第1回 ウクライナ、ガザ……そのとき国際金融の現場で何が起きたか
第2回 戦時下のキーウ行夜行列車
第3回 為替介入 水面下の国際工作
第4回 スリランカ債務交渉の七転び八起き
第5回 鎌倉で座禅の後に銀行危機の大論争
第6回 今回はこちら


