アシックス会長兼最高経営責任者(CEO)の廣田康人さんは、会見で「我々の新しいイノベーションにより、現時点でいちばん良いものをランナーが買いやすい価格で出せた」と胸を張った。

それだけの自信作だが、新モデル誕生の裏には、「1gを削り出す戦い」(アシックス スポーツ工学研究所担当者)があった。

軽量化が成功した最大の要因は前述した新フォームの超軽量素材である「FF LEAP」をミッドソール全体と中敷に採用したことだろう。またカーボンプレートもフルレングスではなく、前足部中心でよりミニマムな形状となっている。

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「SKYとEDGEはミッドソールが2つの構造にわかれていますが、レイヤーが増えると接着する糊も増える。〈RAY〉はミッドソールを1層のみにして、カーボンプレートも最小限にしています。そして踵部分をどこまで削れるのか。削って、走って、削って、走って、を繰り返して、ギリギリまで削りました。それからグリップも半分程度の薄さにして、シューレースの先端につけるプラスチックパーツを取りのぞき、紐先を圧着しました。本当に1gの積み重ねで129gという超軽量を達成したんです」(同担当者)

〈RAY〉は「非常に短い期間に開発された商品」で、わずか「2回のサンプリング」で最終決定に至っている。その間に技術者を悩ませる葛藤もあった。

1回目の試作品は昨夏にできあがり、パリ五輪の現場に持ち込み、アスリートの声を聞いたという。このときは軽量化のためにソールのセンター部分を大胆にカットしており、重量は120gほどに仕上がっていた。

しかし、パリ五輪のマラソンで他社メーカーを履いていた選手がシューズの隙間に石が入り込み、途中棄権した。アシックスは軽量化より安全性を考慮。「アスリートが安心して走れるプロダクトを提供しよう」と、センター部分を埋める決断をして、他の部分での軽量化を模索したのだ。

「もっと軽くということで100gという目標もあったんです。でも、100gが必ずしも正解ではありません。アスリートが安心して着用できる最低限の重量を目指した結果が129gになったんです」(同担当者)