〈あらすじ〉
80歳のミシェル(エレーヌ・ヴァンサン)はパリでの生活を終え、今はブルゴーニュにある家でひとり、田舎暮らしをしている。そこに娘のヴァレリー(リュディヴィーヌ・サニエ)が息子のルカを連れて休暇にやってくるが、昼食後の散歩から帰ると、娘は救急車で運ばれていた。ミシェルが作ったキノコ料理が原因だという。それ以来、ただでさえ緊張感のあった母娘の関係は壊れ、孫にも会えなくなってしまったミシェルはふさぎ込むようになる。
一方、親友マリー=クロード(ジョジアーヌ・バラスコ)のもとには朗報が。長く刑務所に入っていた息子のヴァンサン(ピエール・ロタン)が帰って来たのだ。彼は、ミシェルの菜園を手伝うようになり――。
〈見どころ〉
濃厚な人間ドラマであると同時にサスペンス的な要素も持つ本作は、オゾンの初期作を彷彿。『焼け石に水』(00)、『8人の女たち』(02)、『スイミング・プール』(03)と、オゾン作品に続けて出演し、オゾンの秘蔵っ子と呼ばれたL・サニエも22年ぶりに出演。
人生の秋を彩る、いくつかの秘密
フランス映画の巨匠フランソワ・オゾンの最新作。自然豊かなブルゴーニュの田舎で、人生の秋から冬に向かう時期を穏やかに過ごす80歳の女性を主人公に描く。2024年サン・セバスティアン映画祭で脚本賞、またピエール・ロタンが助演俳優賞を受賞。
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芝山幹郎(翻訳家)
★★★★☆光が柔らかく、影が長くなりがちな時間帯を選んで、フランス中央部の秋の気配をよくとらえている。ただ、それ以上に注目すべきはアンサンブル芝居の化学反応。弱さを抱えた人々の深部から滲み出る不穏な情動が、画面を静かに醗酵させる。エレーヌ・ヴァンサンはさすがの制球力だった。
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斎藤綾子(作家)
★★★★☆ブルゴーニュの美しい田舎道を旧友と散策するヒロイン(80歳)。穏やかで平凡に老いる日々を描くと思いきや、オゾン監督が放つ闇は濃厚だ。悪意や執着が覗くようで隠される。再会した旧友たちは老いて盛んな佇まいだし、暮らしは羨ましいほどの充実ぶり。時が作為の有無をも霧散。
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森直人(映画評論家)
★★★★☆仏ブルゴーニュの美しい風景や、老いのにがみや家族間の確執といった判りやすい主題性に油断してはいけない。感動作の安心の構図を揺るがす不穏さが徐々にせり上がり、意外な強さでこちらの心に爪を食い込ませる。さすがオゾン監督、一筋縄ではいかないミステリー風人間&家族劇だ。
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洞口依子(女優)
★★★☆☆誰しもに訪れる人生の黄昏時を描いているのかと思わせるも、シャブロルタッチなサスペンス要素も入れ込む。2人のベテラン女優の魅力と秋のブルゴーニュの田舎暮らし。老齢の葉が光と影を織りなす中、腐植土の下で出来るキノコの毒性をも解毒する様な、ある意味健在のオゾン節を楽しんだ。
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今月のゲスト
マライ・メントライン(著述家)★★★★★「善悪」「正誤」が執着的にテーマ化される一方、近ごろ曖昧にされがちな「罪悪感」を軸に人間心理の深層を描きぬく逸品。人生の黄昏を再定義するポジティブ映画のような見かけにダマされてはいけない。心霊領域にもセンス良く踏み込むオゾン監督の攻めの姿勢を私は高く買いたい!
Marei Mentlein/1983年、ドイツ生まれ。テレビプロデューサー、コメンテーター。そのほか、自称「職業はドイツ人」として幅広く活動。
- もう最高!ぜひ観て!!★★★★★
- 一食ぬいても、ぜひ!★★★★☆
- 料金の価値は、あり。★★★☆☆
- 暇だったら……。★★☆☆☆
- 損するゾ、きっと。★☆☆☆☆
©2024 – FOZ – FRANCE 2 CINEMA – PLAYTIME 配給:ロングライド、マーチ
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『秋が来るとき』
監督・脚本:フランソワ・オゾン 共同脚本:フィリップ・ピアッツォ
2024年/仏/原題:Quand vient l'automne/103分
5月30日(金)〜
新宿ピカデリー、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
https://longride.jp/lineup/akikuru/




