すべてのハンドリングをしているのは田中?
小説誌で爆笑問題と映画監督の山田洋次や作家のジョン・アーヴィングなど各界の大物との連載対談(のち『対談の七人』〈新潮社、2000年〉と題して単行本化)を企画した編集者は、《太田さんはアコガレの人を前に緊張しているけど、田中さんはいつもとまったく同じ。太田さんが黙りこくってしまうぶん、必死で進行役を務めてくれるんです(笑)》と証言している(『ダ・ヴィンチ』2001年2月号)。
立川談志が田中を「日本の安定」と喝破した(#1)のは、そういうところなのかも……とも思わせる。もともと歌番組の司会ができるようなアナウンサーに憧れていた田中だけに、漫才でも進行役を担うとともに、ツッコミの間合いのよさには定評がある。そのためか、一時は爆笑問題ですべてのハンドリングをしているのは田中だと言われたこともある。
「よく言えば柔軟、悪く言えば何も考えてない」
ただ、これについて本人は、《それを言う人は、「俺はちょっと人と違う見方をするぜ」的な人だと思います。例えばすごいベタな映画じゃなくて、単館ロードショーのこれがいいって言うような人》と一笑に付し、本当にハンドリングをしているのは所属事務所・タイタンの太田光代社長だと付け加えている。なお、田中本人は自身と相方の太田を次のように分析する。
《俺は割と誰とでも平気でいられるんです。よく言えば柔軟だけど、悪く言えば何も考えてないタイプね。例えば職業を今かえても、そこで適当に楽しく生きていけるタイプ。太田は、あの人はもう自分の本当にやりたいことをやりたい。それは譲らないのね。だからある程度自分の主義主張があるやつとは絶対組めないわけ》(以上、引用は『AERA』2008年4月7日号)。
「職業を今かえても……」と言うとおり、田中は爆笑問題の仕事がほとんどなかった頃には、コンビニでのバイトで生計を立て、その仕事ぶりからついには店長候補に目されたほどだった。
他方で、田中とともに芸人草野球チームに参加していた伊集院光は、彼が不遇時代、「毎日野球に来れんだよ!」と負け惜しみでなく本当にうれしそうに試合に出ていたことに、《こんな前向きに物を考える人、アッタマおかしい(笑)》と震えたという(『田中裕二の野球部オフィシャルブック』TAC出版、2016年)。
爆笑問題が漫才を続けてこれた理由
そういう田中の楽天性に太田が救われたところも多分にあったに違いない。事実、著書で、田中はコンビ結成以来1ミリも進歩していないと苦笑しつつも、《進歩できないのには理由があって、あいつは本当に悩めない人間だから。本人も「悩んだことがない」とはっきりと言ってるし、少しは悩んだとしても1日経てばケロッとしていて、引きずることがない。うらやましいと言えばうらやましいし、そんな田中の性格のおかげで、ネタ作りそのものに関してぶつかることがないというのは、爆笑問題が漫才を続けてこれたひとつの要因なのかもしれない》と語っている(太田光『違和感』扶桑社新書、2020年)。


