2024年に公開された劇場版『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』を観に行った時のことだ。上映が終わり場内が明るくなると、真っ先に筆者の耳に「最低でも、あと5回観に行く」という言葉が聞こえてきた。見知らぬ隣の観客が一緒に来ていた友人にそう話しかけていたのだ。
観終わった直後にあと5回観たいと思わせる作品のパワーとはどこから来るのだろう、と感心したのを覚えている。同作は、物語としては一度観れば覚えられるほどにはわかりやすくできている作品だろう。たまたま筆者の隣に座っていた方は、この作品の何を「最低でもあと5回」観たかったのだろうと考えていた。
それは、おそらく物語そのものが一番の目当てではないのだろう。筆者はなんとなくそんな気がした。
“オリジナル映画”は苦戦を強いられている
昨今、日本の映画市場ではアニメ映画が圧倒的な興行力を発揮している。その多くは人気マンガを原作とするシリーズの「劇場版」であることが多い。現在の映画市場は人気IP(知的財産)の力なくして映画興行は成り立たなくなってきている。
一方で苦戦を強いられているのは、オリジナル映画だ。実写でもアニメーションでも、よほど話題にならないことには、オリジナル作品で集客をすることは難しくなってきている。それがどんなに優れたストーリーとテーマを持っていたとしても、だ。
今、映画館とは新たな物語を観に行く場所ではなく、別の何かを求める場所になっているのかもしれない。それはなんだろうか。そして、それは映画の不可逆的な変質を意味するのかもしれない。
