5/5ページ目
この記事を1ページ目から読む
それでも、出向した警察庁で捜査支援を全国に広げる仕事に骨を砕いた。19年に退官。最後の階級は限られた人しかなれない「警視長」だった。
オウム元死刑囚に尋ねたかったこと
オウムの松本元死刑囚ら13人の死刑は2018年に執行された。取調室で言葉を交わしたことがある土谷正実・元死刑囚(執行時53歳)とはもう一度話がしたかった。筑波大学大学院で有機化合物を研究した専門知識の持ち主。「優秀な科学者が、どこで道を誤ったのか聞いてみたかった」という。
「科学には意思がない。扱う人によっては容易に犯罪に利用されてしまう」と思う。特に、IT技術が高度に発達した現代では、「気付かない所で恐ろしい犯罪が計画されているかもしれない」との不安が尽きない。
警察を離れた後も、「死ぬまで社会に貢献する」という東邦大の伊藤教授の言葉が胸にある。最高検参与などを務める傍ら、個人で「技術戦略アドバイザー」として活動。AI(人工知能)をはじめとする民間企業の先端技術を捜査に生かす助言をするなど、「『官』と『民』の橋渡し役」が使命だ。
地下鉄サリン事件から30年。「昼夜問わず事件に臨む捜査員を科学で支える」。強い志は色あせていない。
[2025年3月9日掲載/貞広慎太朗]
読売新聞社会部「あれから」取材班 過去のニュースの当事者に改めて話を聞き、その人生をたどる人物企画「あれから」を担当。メンバーは社会部の若手記者が多い。人選にこだわり、取材期間は短くても3カ月。1年近くかけることもある。2020年2月にスタート。ネット配信でも大きな反響を呼び、連載継続中。サイトはhttps://www.yomiuri.co.jp/feature/titlelist/%E3%81%82%E3%82%8C%E3%81%8B%E3%82%89/
