見逃せないのはそれだけでなく、ひかり氏が口をつぐむことを、「私のためというよりもあなたも属する大阪地検のためということでお願いします」と言っていることだ。ひかり氏はこれを脅迫だと指摘しているが、別の言い方をすると、北川被告は組織内の不祥事の隠蔽工作を図っていたと言える。
元々、検事正が性暴力事件を起こしたということだけでも驚愕に値する話だが、検察という組織のトップで、誰よりも法を守るべき立場の人が、「組織の一員として、被害者であっても身内で起きた犯罪には沈黙すべき」と当然のように口止めすること自体が、「大スキャンダル」であるように思える。
性加害で訴えられた北川元検事正、直筆の手紙の字は「幼い」
犯罪を捜査するための機関が、犯罪よりも身内への影響を第一に考えているのだ。これは自己否定ではないのか。どれだけ優秀で実績があっても、こんな倫理観に欠けた人物が検察のトップになるとは、どういうことだろう。この倫理観のなさは北川被告特有のものではなく、検察組織の内部に漂う空気を反映していないと言えるのだろうか。
北川被告は最高検刑事部長や大阪高検次席検事などを歴任し、検察組織内の出世街道を歩んできた。しかし、事件を起こした後、2019年11月に退官し、以後は弁護士に。複数の企業の社外取締役にも就いていた(逮捕後、再任が撤回された)。こうしたきらびやかなキャリアの一方で、公開された手紙の筆跡は子供が書いたように幼く、奇妙なアンバランスさを感じさせる。
元々の性暴力事件が起きたのは2018年9月のこと。北川被告の手紙は、それから約1年後の2019年10月付のものだった。付け加えると北川被告は手紙の中で、ひかり氏に訴えられたら自死をするかもしれないと再三示唆し、口止めを図っている。しかし現実には、「被害者の存在を忘れたかのように、盛大な退官祝いパーティを開き、検察幹部らと夜な夜な酒を飲み歩き、検察庁に影響力を持ち続けた」とひかり氏は非難している。