なぜ検事であり妻・母でもある被害者を襲ったのか?
このようにして北川被告に沈黙を強いられたまま、ひかり氏は6年間耐えていた。しかし、やがて、夜は1、2時間しか眠れず、体中が緊張して痛み、仕事中も涙が出そうになって、人がいなくなると泣き出してしまうようになっていった。
被害に遭った時、ひかり氏は既婚で幼い子供もいた。育児をしながら、寝ないで仕事に打ち込むことで苦しみを抑える状況が続いていたが、「このままでは死んでしまう」と夫が心配し、初めて病院に行くと、重いPTSDの診断を受けた。ひかり氏は「処罰すべき犯罪者を処罰しなければもう生きていけない」と思い、2024年2月被害を訴えたが、同年3月以後、病気で休職。今なお復帰できていない。
ひかり氏は会見で「泣き寝入りを強いられた私は、痛みを堪えながら、性犯罪事件などに苦しむ被害者の方々に寄り添い、ともに闘い、犯罪者を処罰し、被害者の救済に取り組んできた。そうすることで私も救われるような想いだったのだと思う」と語っている。
被害者自身が法律家、他の性犯罪で加害者を処罰してきた
ただでさえ性暴力事件の暗数は大きく、被害を訴えられない人が極めて多い。訴えた後も大変な経験をして傷つくケースが多く伝えられている。X(旧ツイッター)などSNSでは、それにもかかわらず不起訴になる場合が少なくないことや、そもそも現行の法体系において求刑が軽すぎることへの批判が高まっている。そうした中、ひかり氏は被害者のために闘ってくれる貴重な検事であったのに、北川事件の結果、病欠に追い込まれる状態となっている。
この会見でもひかり氏は、しっかりした口調で理路整然と受け答えをしていたが、時折突然涙声になる場面があり、精神的に大きな負担がかかりながら会見に臨んでいることがうかがえた。
ただ性被害者が、法に訴えて闘う時にできることや被害者の権利にはどんなものがあるか、法律家として教えてほしいと私が質問した際、被害直後の物的痕跡や、書いたり相談した記録を証拠として自ら提出したり、事情聴取の際に自分の言いたいことを書いて渡したりすることができるだけでなく、裁判所に提出された証拠を開示してもらったり裁判に参加したりすることが可能だ、と即座に答えてくれた。