ただ救いとなるのは、苦しんだあげく沈黙より闘いを選んだ彼女たちは、まさに当の組織で育ってきた人たちであることだ。その点大阪高検も、警告メールを送って口をふさごうとするのではなく、むしろひかり氏のように、大きな相手に挑んで闘う検事が組織内にいることを、誇りに思うべきだ。そうした検事がいないと、巨悪と闘う力など生まれないだろう。

法律家である被害者は、自分が所属する検察とどう闘う?

ひかり氏は今後、誹謗(ひぼう)中傷がどれだけ広まっていたか自ら調査し、検察審査会に申し立てをすることを考えている。また公務災害の申請や、検察庁の対応についての人事院への申し立て、北川被告や副検事への損害賠償請求や国家賠償請求も検討している。公判では引き続き、被害者参加制度を利用し、被告人への質問や論告求刑もしていきたいという。

現役検事のため名前と顔は伏せているが、正面切ってこれだけ闘えるのは法律家ならではと言える。検察の身内だと法の適用が異なるとしたら、つまり加害者を罰せられず、被害者を救えないなら、それは法の根本を無視することだ。そうした除外措置は容易に、検察組織の外部にいる権力者の免罪にも転化されることだろう。ひかり氏は自分の被害を超えて、法のあり方と社会のあり方を含んだより大きなもの、正義と人権について問うているのではないだろうか。それは結果的に、法と社会を守るためのものだ。

柴田 優呼(しばた・ゆうこ)
アカデミック・ジャーナリスト
コーネル大学Ph. D.。90年代前半まで全国紙記者。以後海外に住み、米国、NZ、豪州で大学教員を務め、コロナ前に帰国。日本記者クラブ会員。香港、台湾、シンガポール、フィリピン、英国などにも居住経験あり。『プロデュースされた〈被爆者〉たち』(岩波書店)、『Producing Hiroshima and Nagasaki』(University of Hawaii Press)、『“ヒロシマ・ナガサキ” 被爆神話を解体する』(作品社)など、学術及びジャーナリスティックな分野で、英語と日本語の著作物を出版。
次のページ 写真ページはこちら