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安倍晋三 首相
「私の家庭も残念ながら子宝に恵まれていない。産むか産まないかは本人の選択に委ねられるべきだ」

時事ドットコムニュース 6月27日

 二階氏の発言には与野党の幹部から批判が相次いでいる。立憲民主党の辻元清美国対委員長は「『産めよ、増やせよ』の発想からまだ抜け出していないのか」と批判。国民民主党の舟山康江参院国対委員長は「産みたくても産めない人もいる。非常に不適切だ」と反発した。一方、自民党の岸田文雄政調会長は記者会見で「幸せの形は人それぞれだ」と発言。公明党の石田祝稔政調会長は「それぞれ家庭の考え方もある。ちょっと言い過ぎたのではないか」と二階氏の発言をたしなめた。

 27日の党首討論でも二階氏の発言の是非についての議論が行われ、立憲民主党の枝野幸男代表は自らの不妊治療の経験に触れつつ、安倍首相に「二階氏の発言は看過し得ない。党総裁として指導を求めたい」と訴えた(時事ドットコムニュース 6月27日)。その際、枝野代表から「総理として、子どもを産まないほうが幸せだというようなことを考えてる人は勝手な人だという認識をお持ちでしょうか」と問われて、安倍首相は上記のように返答した。まったくその通りだ。

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 一方、安倍首相は過去に「大家族で支え合う価値を社会全体で改めて確認すべきだと思います」とも発言している(首相官邸HP 2014年7月19日)。大家族も、子どもがいない家族も、それぞれの幸せを追求できる社会にしていただきたい。

二階俊博 自民党・幹事長
「みんなが幸せになるためには、これは、やっぱり、子どもをたくさんを産んで、そして、国も栄えていくと、発展していくという方向にみんながしようじゃないかと」

TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」6月26日

 

 これも26日の講演で二階氏が発言したもの。「みんながしようじゃないか」という言葉からは、二階氏が感じる「勝手なことを考える人」たちへの疎ましさがにじみ出ている。

 佐賀県教職員組合や保護者らでつくる「民主教育をすすめる佐賀県民会議」は、28日、二階氏と安倍首相に抗議文を提出した。抗議文には「結婚・出産は個人の自由意志に基づいて決定される」とし、「憲法13条は、個人の自由意志と自己決定権があることが書かれている」と指摘した上で「発言に強く抗議する」と記されていた(佐賀新聞LiVE 6月29日)。

 なお、自民党は憲法13条の改正を試みている。自民党の憲法改正案では、「公共の福祉に反しない限り」という言葉を「公益及び公の秩序に反しない限り」に、「個人」という言葉を「人」という言葉に書き換えることが提案されている。

 ダイバーシティなどに詳しい山口一男シカゴ大学教授は自民党の憲法改正案について、「『公益』は『国益』に近く『国民の利益』はその一部ではあってもすべてではない。特に『公益』の意味のあいまいさは、その解釈が政府にゆだねられることに結びつきやすく、そうなれば政府のあり方次第で国民ひとりひとりの自由が大きく制限される可能性を生む」と指摘している(ハフィントンポスト日本版 2016年6月14日)。

 二階氏の「子どもをたくさん産んで、そして、国も栄えていくと、発展していくという方向にみんながしようじゃないかと」という発言はそれだけを読めば間違ったことは言っていないようだが、「勝手なことを考える人」という発言とセットで考えると、ちょっと背筋が寒くなる。ヘイトスピーチなどは論外だが、「公益」「国益」は個人の自由を制限するものではない。